最終話

 やがて、姉妹の片割れ、妹のほうは死んでしまいました。


 絶対に死ぬことはないであろうと思われていた姉妹の片方が、死んでしまいました。


 姉は妹の死を悲しみませんでした。あれほどの良かったはずの姉妹仲も、いつの間にかすっかり瓦解していました。


 しかし、姉が妹を見限るのも無理はありません。妹は一人で勝手に姉の前から姿を消し、姉の身体を傷つけて黒猫の姿にした挙句、その心臓を奪い取ったのですから。いくら唯一の家族とは言っても、姉が妹を許せるはずありません。


 妹は死を恐れ、絶対に死にたくないと決意を固めて奔走した結果、皮肉にもその自分の行動がきっかけで死ぬことになりました。


 妹はあと一歩のところで念願叶わず死に、姉は唯一の家族を失いました。


 妹は命もろとも全てを失ってしまいましたが、しかし、姉のほうは全てを失ったわけではありませんでした。


 姉は、妹の代わりとなりうる少年を見つけていました。


 その少年は妹と同じ能力を持ち、そして妹と同様、極度に死を恐れていました。


 そしてその少年も、他人の血液を奪わなければ生きていけませんでした。


 だから少年は、他人を殺して、他人の命を代償に自分の寿命を延ばしていました。


 他人を殺して生き永らえる、極度に死を恐れる少年。


 おそらくその少年も、いつの日か、妹と同様に、姉の心臓を奪おうとするでしょう。それは姉にもわかっていました。いつか少年が自分の心臓を奪って、その行動の結果として死んでしまうのだろう、ということまでわかっていました。


 歴史は繰り返します。姉は、その繰り返す歴史を傍観することしかできません。それこそが、いつか必ず死ぬという運命が無い代わりに与えられた、無限の魔人の運命でした。


 この少年が姉の心臓を手にして死んでしまった後、また新たな妹と同じ能力を持つ者が現れるかもしれません。そしてきっとその新たな妹も、生を渇望して姉の心臓を奪おうとするでしょう。


 そこまで予想ができていても、姉は何もできません。姉が何をしても、その歴史を変えることはできません。まるで、観ている映画の展開を自分で変えることができないように。まるで、何をしても消えることがない姉の命のように。


 死ぬことができない姉は、ただ世界の出来事を傍観するしかないのでした。


 そうして姉は、その後の悠久の時を、時々猫になったり美少女になったりしながら、ただただ、生きていくのでした。

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天から来たりし血みどろ女! ニシマ アキト @hinadori11

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