第10話 脱走しますよ?

 どこに書いたか覚えてないので、ここでもう一度書いておきましょう。


 うちは酪農家です。牛乳を出荷するために牛を飼っています。


 冬場は雪が積もっているので牛舎の中にいるのですが、暖かくなって、雪がなくなる頃には、外の放牧地に出して、そこで餌や水を与えたり、もっと暖かくなって、牧草が出てくると、牛はそっちを好んで食べるようになります。


 そして、ちょいちょい、脱走します。


 1頭だけ、牛舎の近くで、くらいなら、夫と二人でじわじわと逃げ道をふさぎつつ、牛舎の中に入れることもできるのですが、中には、「ヒャッハー」組もいて、10頭くらいでつるんで大脱走。隣の畑(1km向こう)まで走っていく。


「牛歩のごとく」なんて誰が言いました?牛の走る速さを皆さんご存知ない。めちゃめちゃ速いですよ、奴らは。そして、当たり前だけど言うことを聞かない。柵の電気を切って、そこに追い込むために、夫、軽トラで追い込む。

 牛帰ってきたら、線を張ろうとして立っていたら、牛の群れに突っ込んでこられて、

「どけ!! よけろ!! 逃げろ!!」

 夫が軽トラの窓開けて叫ぶ声。慌てて線を放り出して逃げ、その辺で止まってウロウロし始めた奴らを一つ一つ追い込んで、やっと全部捕まえましたが……。


「なんで? どこから逃げたんだ?」

 って、夫が原因を調べたら、なんと、前日に、義父とう様がショベルで電気を通す線を支えている杭を倒していたことが判明。そして、その当人、朝からご機嫌で団体旅行に……。もう、夫、カンカンでございました。

「もう帰ってくんな!!」



 私は子牛の哺乳をしているんですが、こっちもちょいちょい逃げます。これがねー、捕まらない。親ほど体が重くないので、ピョンピョン逃げる。よし、子牛のハウスまでもうちょっと、と思って追い込んだら、ハウスを上手いことすり抜けて逆方向へ。もうね、リアルに「orz orz」膝から崩れます。


 一度、双子で、めちゃめちゃ小さい子が生まれて、無事に元気に育ってたので、よかったよかったと思ってたら、元気が余って脱走。小さいから、哺乳するための柵の隙間から脱走したようで。

 私、知らなくて、家にいたんですが、義母かあ様が呼びに来て、

「もう2時間くらい探してるんだけどいないんだわ」

 って……いや、もうちょっと早く言ってこようか、義母様。


「もういないんだわ……」

 と、最早あきらめモードの義母様。いやいやいやいや、野良子牛作ってどうする。

 で、義母様、また、子牛を呼び始めます。

「ベェ〜! ベェ〜!」

 そこで気づく私。牛のマネして呼んでるからわからないんじゃ……。


 試しに呼んでみました。

「帰ってこーい」

 暫くして、帰ってくる子牛……。そして私にスリスリする子牛。

「嘘? なんで?」

 びっくりする義母様。


 だから、私、哺乳するとき、人間語しか喋ってないからね。牛語で呼んでもわからないんだわ、多分。

 という結論に落ち着きましたが、多分、私が主にその子に哺乳をしていて、義母様は隣の子牛がメイン。義母様は、呼ぶときに「ベェベェ、ベェベェ」と呼ぶけれど、私は、「ほれ、飯じゃ、来い!」って呼んでいるのが原因かと……。すみません、雑な嫁で……。



 それにしても、いろんなキャラクターの牛の世話をしているわけですが、相手がとにかくでかいので、踏まれたり、2頭の間に挟まれたりすると大怪我に繋がります。

 実際、夫、踏まれて、足折ってますし、頭ぶつけられて肋骨やったりもしてます。ちなみに、私も子牛に踏まれまくってるので、両足の第二指の靭帯が伸びちゃってるみたいです。まあ、スポーツ選手じゃないからいいんですけど(笑)。



 そんな危険で、臭くて、汚いとこ……ってよく思われてるんですけど、そういう仕事をしてる人がいるから、牛乳や乳製品が飲めたり食べたりできるんだ、ということを知って頂けると嬉しいです。


「牛乳なんか飲まないし、私には関係ないわ」

 と思ってるオシャレなお姉さん。あなたが飲んでる、その素敵なラテアートが施されたカフェラテや一緒に頼んだバスクチーズケーキ、前のお友達が食べてるパンケーキにもバターにも、隣のアイスクリーム屋さんの前のベンチで座って女子高生が食べてるアイスにも、隣で笑ってる子のクレープにも生クリームにだって、牛乳は使われてますからね。お忘れなく。

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