第113話


 宿屋の親父に約束通り今回の事件のことの顛末を報告をすると、普段はみせない真剣な表情で黙ったまま最後まで聞いていた。


「……そうか、奴ら壊滅したのか」


 すべて聞き終えた宿屋の親父は、短くため息をついてから髭を触りながらそう呟いた。子供たちのことを頼んだ時からなんとなく分かってはいたが……


「女神教のことを知ってたのか?」


 出してもらったコーヒーを一口飲みながら俺がそう質問すると、宿屋の親父は腕を組んで眉間に皺を寄せて


「んーむー……」


 となにやら唸っていたが


「ま、ここまできて秘密にすることでもねーか……これから話すこと、絶対に何があってもリナに言うんじゃねーぞ」


 何とも言えない表情でそう言って、こちらを真っ直ぐ見ながら過去のことを語り始めた。


 宿屋の親父はこの街に産まれ、昔は俺と同じように冒険者をしていてたそうだ。ランクも順調に上がり、活動していた地域では結構有名なB級パーティだったそうだ。その時に冒険者ギルドに、近隣の村や町から人間が何人も行方不明になっているから調査をして、その人たちを連れ戻してほしいという依頼が持ち込まれた。


 その依頼を受けたのが宿屋の親父が所属していたパーティ『勇猛』だったそうだ。


「……その依頼は」


「ああ、女神教絡みだ。つっても俺たちが乗り込んだのはお前らが潰したような遺跡みたいなところじゃなかったがな。話を聞く限りお前らが潰したのが‘‘本部‘‘だったなら、俺たちが乗り込んだ所は‘‘支部‘‘ってところか」


 そして‘‘支部‘‘に乗り込んだ宿屋の親父たちは女神教の激しい抵抗にあい、なんとか女神教の信者たちを殲滅することができたが、その時の戦闘で仲間の一人が死亡しもう一人は腕を失うほどの大怪我を負ってしまったそうだ。

 腕に関しては金があれば治療することができる。だが、死んでしまった命はどうすることもできない。


「戦闘が終わってな、仲間たちが悲しみに暮れてる時に赤子の泣き声が聞こえたんだよ。消え入りそうなほど小さいやつがな。それで、辺りを探したら遺体の腕の中で泣いている赤子を見つけたんだ」


 ここまで話を聞けば大体は察しはつく。


「その赤子が……」


「ああ、リナだ。あの時俺たちはその赤子をどうするかで結構揉めてな……まあ結局はギルドに報告して、ギルド経由でどこかの孤児院に引き取って貰おうって話になったんだが……」


 そこまでいって宿屋の親父は昔を思い出すように目を瞑る。


「抱き上げようとすると、大泣きしながら小さい手でその遺体の服を掴むんだよ。別にあの時は子供のことは好きでも嫌いでもなかったけどよ……いや、むしろ苦手な方だったんだが……正直心にきたぜ」


「……」


 想像してみると確かにキツい場面だ。


「んで、ギルドへ報告する為に戻ってる最中は俺がリナの面倒を見てたんだ。大変だったぜ、なんつったってそれまで赤子を抱いたことすらなかったんだからよ。必死になってあやしたりすぐ近くの村で譲ってもらったミルクを飲ませてたりして……さっさとギルドに引き渡して楽になりたかったんだが……いざギルドに引き渡すときになって今度はリナが俺の指を掴んで離さねえんだ。……どうしてもよ、できなかったんだ」


『やっぱ俺がこの子の面倒見るからいいわ』


「今思えば軽率な発言だったと思う。パーティメンバーにも色々面倒をかけちまったしな……けど、俺は後悔はしてねえ。リナは俺みたいな人間に育てられたのに良い子に育ってくれている。あの子は俺の宝物だ」


「そうか」


「おう」


 そう話す宿屋の親父はどこかすっきりした表情をしていた。もしかしたら誰かにその話をしたかったのかもしれない。

 そろそろ礼を言って出ていくか、また後日正式な礼をしないとな。俺がそう考えていると


「あ、そうだ」


 宿屋の親父が何か思いついたように自分の手をぽんと叩く。


「どうした?」


「今回の礼ならまた今度猥談に付き合ってくれることでも……」


「世話になったじゃあな」


「あ、オイ! 待ちやがれ!」


 俺はそのままそそくさと扉を開けて出て行った。後ろで宿屋の親父が何か言っているがその話にはまた今度付き合ってやればいいだろう。今は行きたいところもあるしな。






「こんなもんか……」


 そう呟いてダルテの日記を本棚へと収める。


 あれからニナたち親子が住んでいた森の中の家を片付けにやってきた。荒らされてはいたが、家の中を派手に破壊したような跡はなく、なんとかある程度綺麗な状態にすることが出来た。

 おそらくギルバートの野郎はニナがスキルを発動させて目の前から消えた後、本当に一応この家の中を調べただけだったのだろう。


 そして、その途中でベッドの下にダルテが身に着けていたものと同じデザインのロケットペンダントを発見した。カチリとペンダントの蓋を開くと、やはり赤子のニナを抱いて優しく微笑んでいるダルテとシーラが浮かび上がった。


 仇はとった。


 だが、この親子が歩めるはずだった時間が戻ってくることは二度とない。


 あと俺ができることは


「ニナのことは任せな……必ず幸せにするからよ。それまでこれは責任をもって預かっとくぜ」


 ダルテとシーラの墓の前でそう言ってロケットペンダントを箱に入れてマジックバッグへと収納する。

 いつか、ニナが全てを思い出す日がくるだろう。その時はこのロケットペンダントを渡してあの子ニナと一緒にこの家へと来よう。


 その為に、これからも定期的にここへ掃除をしに来ないとな。


 立ち上がり、子供たちが待ってくれている家へと戻ろうと背中を向けて歩き出す。


 その時、森の中を優しい風が吹き抜けた



 ――――ありがとう



 気のせいだろうか、誰かにそう言われた気がした。


「ああ」


 俺は一瞬だけ立ち止まり、振り返らずにそう言ってから再び歩き出した。






 そして、急いで家に帰った俺を待っていたのは


「おとーしゃん……きょうからになひとりでねんねする!」


 そんな残酷な言葉だった。


 え? な、何故だ?


 落ち着け俺……と、取り合えず状況を整理しよう、うん。

 あれから全速力で帰宅して、アリアメルたちが作ってくれた夕飯を皆で食べて片づけをしている最中に、突然真剣な表情でニナそう言ってきたのだ。しかも後ろにいるステラとラッツまで流石にニナ一人では……という感じでちびっ子たちは三人で寝ることにしたそうだ。


 これからお風呂に入って、少しの間の家族の団らんを楽しんで、ニナ、ステラ、ラッツに絵本を読んであげながら就寝するという幸せな時間が待っているはずだったのに……待っているはずだったのにっ……一体なぜこんなことに。

 あ、あれか、もしかして今日読む予定だった絵本「わんにゃん騎士道物語」が嫌だったのか? なら別の絵本に……と考えたが、この「わんにゃん騎士道物語」はラッツがとても楽しみにしていたことを考えるとそんなことは言えない。


 もしくは考えたくはないがお父さんが臭いから嫌、とか?

 すんすん……いや、そんなに臭くは……とも思ったが、そういえば体臭って自分ではあまり気付かないものらしいからな。


「そそそ、そうか」


 動揺して手に持った食器を乗せたお盆が小刻みに震えてかちゃかちゃ鳴る。


「あ、あの……凄い汗ですけど大丈夫ですかグレイさん」


 そんな俺をみて心配そうに声をかけてくれるアリアメル。


「だ、だだ……大丈夫、だ」


 強がってそう答えたが、正直全然大丈夫じゃなかった。夜、ちゃんと眠れるだろうか……。


 

 そんな心配をしていたが、夜中にニナ、ステラ、ラッツが俺の寝室に来てやっぱり怖いから一緒に寝たいと言ってくれたので思わず三人を抱きしめていると、いつの間にか寝室から出てきていたアリアメルたちがその光景を笑いながら見ていて少し恥ずかしかった。



 ――――――――――


 字数管理が全然できていない……


 

 敵と戦う時は鋼メンタルなのに子供たちと接するときは豆腐(絹ごし)メンタル系冒険者。

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