第112話
「ぅー……」
ニナが眠そうに目を擦りながら起き上がる。
「あれぇ? しゅてらー? らっちゅー?」
そして一緒に寝ていたはずのステラのラッツの姿がないことに気付く。不安そうにきょろきょろと寝室を見渡すも二人の姿は見当たらない。
先におきたのかな? とも思ったが何故かニナはとても不安になった。
でもきっと下に降りたらきっとキッチンにアリアメルが居て朝ごはんを作ってくれているに違いない。そしたらニナの姿をみて
「あ、おはようニナ。ふふ、朝ごはんもうちょっと待っててね。その間にお顔洗っておいで」
そう言って優しく笑ってくれるはず……それに眠そうなイスカにフィオが呆れながら二人でアリアメルのお手伝いをしているはず。そこにステラとラッツも居て、アレスやミア、ルルエコに……それにもしかしたらお父さんがお仕事から帰ってきているかもしれない。そしたらお父さんにたくさんお話ししたいことがある。
お父さんが帰ってこなくてたくさん我慢したから、いっぱい甘えて遊んでもらおう。
だから、大丈夫。
そう思って人形を抱きしめながら寝室の扉を開く。
だが、廊下に出たニナは直ぐにあることに気付いた。
お家のなかがとても静かだ、と。普段なら朝はとても騒がしくて、食器を並べる音やイスカを起こすフィオの声が聞こえるのに。
湧き上がる不安を人形を抱きしめて抑えながら一階へ降りる。
そして静かなキッチンをのぞき込んでみたが、ニナの期待に反してそこには誰も居なかった。
「……ありあおねえちゃ? いしゅかおにいちゃー? ふぃおおねえちゃどこー?」
不安が、どんどん大きくなってくる。
もしかしたら皆まだ寝ているのかもしれない。
そう思って2階へと戻って皆の部屋を訪ねてみることにした。
ガチャリ
「ありあおねえちゃー?」
アリアメルの部屋には誰も居ない。
ガチャリ
「いしゅかおにいちゃ、おねぼうしゃん?」
イスカの部屋には誰も居ない。
ガチャリ
「……ふぃおおねえちゃ?」
フィオの部屋には誰も居ない。
ガチャリ
「……しゅてらー、らっちゅどこー?」
自分たちの部屋にも誰も居ない。
ガチャリ
誰も居ない。
ガチャリ
誰も居ない。
誰も、居ない。
「おとーしゃん……」
不安に耐えきれなくなり、泣きそうになるニナ。
寂しい、怖い。
でも、まだお庭を探していない。もしかしたら皆お庭に居るかもしれない。そうだ、そうに違いない。
早くお庭に行かないと。
そう思って玄関まで来たのに、何故か扉を開くのがとても怖くて体が動かなかった。この扉の向こうに皆が居るかもしれないのに。
扉の向こう。
扉の向こう?
なにか、なにかとても大切なことを忘れているような……思い出さないといけないのに、思い出すことがとても怖いなにかが……。
「やあ、どうしたんだい?」
ニナが扉の前で悩んでいると、後ろから誰かに声を掛けられた。とても聞き覚えのある、優しい声で。ニナはゆっくりと後ろを振り返ると、いつの間にか眼鏡をかけた優しそうな男の人がそこに立っていた。
「おじしゃんだれ?」
ニナがそう問いかけると、眼鏡を掛けた男の人が一瞬寂しそうな表情になり、すぐに優しく笑って、屈んで視線を合わせながら答える。
「僕の名前は―――……お嬢ちゃん、の名前は?」
「になは、にな」
「そっか。……うん、とっても良い名前だね。ニナ……ちゃんはこんなところでどうしたんだい?」
何故かこの時のニナは自分たちのお家に知らない人が居ることへの疑問が浮かぶことはなかった。だから、自分が一人じゃないことに対して少しだけ安心していた。
「えとね……」
ニナこれまでのこと――起きたら家族が誰もお家の中に居なくて、とても不安で……だからこれからお庭へ探しに出ようとしてることを伝える。
でも、何故か怖くて扉が開けれないことも。
「そう、なんだね。……ねえニナちゃん、少しだけ……少しだけおじさんとお話しをしないかい?」
「……うん」
あまり知らない人とお話したら駄目だとアリアメルには言われていたが、ニナはこの眼鏡を掛けた男の人が知らない人とは思えなかった。
その理由は、この時はまだ分からないが。
「ありがとう、じゃあ――」
そして、ニナと眼鏡を掛けた男の人は色々なおしゃべりをした。
好きな食べ物や苦手なもの、アリアメルのお手伝いをして褒めてもらったこと、イスカがお父さんと同じ冒険者というお仕事をしたがっていること、フィオが実はイスカが大好きなこと、ステラが嫌いな食べ物をラッツにあげようとして怒られていたこと、ラッツはお庭によく遊びにくる猫ちゃんと仲が良いこと、最近アレスという弟ができたこと。
――大好きなお父さんが何日か帰ってこなくて寂しいこと。でも、お父さんに貰った人形があるから我慢できること。
それを嬉しそうに、寂しそうに相槌をうちながら聞いている眼鏡を掛けた男の人。
「うん、良いご家族なんだね……よかった、本当に。……ねぇ、最後に一つ聞いてもいいかな?」
「? ……う、ん」
最後に、という言葉を聞いて、ニナは自分が涙を流していることに気付いた。
「ニナは今、幸せかい?」
涙が、止まらなかった。
目の前にいる男の人には、ちゃんと笑顔を見せてあげたいのに。
最後に、ちゃんと。
「ゔんっ!」
ニナは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、がんばって笑顔を作りそう答える。
「そっか、そっか」
いつの間にか、目の前にいる眼鏡を掛けた男の人も涙を流しながら笑っていた。
そして
「ほら、もう大丈夫。ご家族がきっと待っているよ……扉を開けてごらん?」
ニナはこくりと頷き、袖で顔をぬぐいながら扉へとゆっくりと近づく。
眼鏡を掛けた男はその姿を目に焼き付けるように見つめていた。
――――もう、君の腕を引いて隣を歩くことはできないけど
ニナは扉の前で一度立ち止まり、人形をぎゅっと抱きしめる
――――これから先の、君の道行きに
そして、意を決して扉のドアノブに手をかけ
――――優しく、温かな光が溢れていることを
ガチャリ、と扉を開いた
――――遠い空の向こうから祈っているよ
――――さよならニナ、私たちの可愛い娘
その時、ニナは一度後ろを振り返り
「……おとーしゃ――」
そう言おうとした瞬間、世界が光に包まれた。
「……ナ」
声が、聞こえる。
「…ニナ大丈夫か?」
ニナが目を開くと、自分を心配そうにのぞき込んでいるグレイと目が合った。
その隣には同じく心配そうにしているステラとラッツが居た。そしてエプロンを着けたままのアリアメルにイスカとフィオ、アレスもそれぞれニナを心配して声をかける。
皆どうしたんだろう? とニナが考えていると、自分が涙を流していることに気付いた。
「怖い夢でも見たのか?」
頭を撫でながらそう聞いてくるグレイ。
ニナは少し考えて、首を傾げながら
「わかんないー」
と答えた瞬間、はっとした表情になり
「おとーしゃんかえってきた!」
そう言ってグレイへと抱き着く。帰ってくるのが遅かった不満はあるけど、でもまずは
「おとーしゃんおかえりっ!」
「ああ、ただいま。遅くなってごめんな」
そう言いながら
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