第97話


 「ごぶっ……」


 顔面へと膝蹴りを食らった『迅雷』のリーダーは、持っていた剣を落としながら前のめりに倒れる。

 気を失っているのか、ピクピクと痙攣していて起き上がる気配はない。

 

(凄い……)


 『迅雷』のリーダーが、ガンザスに一瞬で沈められたのを見てアレスは素直にそう思った。


「……は?」


「おいマジか……」


「クソ、役立たずめ! お前達も何を呆けている!」


 自分達のリーダーがあっさりとやられたのを見て呆けていた他の『迅雷』のメンバーだったが、バズの怒声を受けて慌てて動きだそうとするも


「ボサッとすんな素人が」


 その隙にガンザスが距離を詰めて片手斧ハンドアックスを振るう。


「ああああぁ!」


 そしてガンザスに肩口を斬られた戦士風の男が悲鳴を上げる。


「野郎!」


 先程アレスに斬られた斥候スカウトが懐に忍ばせていた投げナイフを取り出す。ナイフには毒が仕込んであり、刺されば例えヒポグリフ等の中型の魔物であってもタダでは済まない。人間ならば簡単に死に至らしめるができるものだ。


 斥候スカウトが、ガンザスの背中に向かってナイフを投擲しようとしたその瞬間。


「させない!」


「っ?! このガキ!」


 そこにアレスが割り込んでナイフをショートソードで叩き落とし、素早く斥候スカウトに斬り掛かる。


 先程より深く胴体を斬られた斥候スカウトが悲鳴を上げながら倒れ、その感触にアレスは眉をひそめる。

 グレイの特訓により多少は人間と戦うことに慣れてはきたが、やはり人を斬った時の感触には慣れない。


 それでも、アレスにも守りたい人達がいる。


 地面に倒れ、血を流しながら呻いている斥候スカウトの道具袋を外し、手の届かない所へと放り投げる。


「……暫くそこで大人しくしていて下さい」


 アレスはそう呟いて交戦中のガンザスの援護へと向かう。


(駄目だ、コイツ等じゃこの男と勇者のガキにはとてもじゃないが勝てない。クソ……折角“転移“のガキと合わせて本部への良い手土産ができたと思ったのに!)


 その状況を見ていたバズが冷や汗を垂らしながらゆっくりと後ずさる。『迅雷』を魔法で援護しようとも思ったが、こうもあっさりと倒されてはそれも間に合わない。


(……やむを得ん。コイツ等を見捨てて私だけでも……)


 逃げるか。


 バズは一瞬そう考えるも


(いや、駄目だ。コイツ等が捕まって余計なことを話せば私自身も粛清対象にされかねん……。それに……)


 バズにとって『迅雷』は使い捨ての駒ではあるが、あくまでも彼らはとある人物から派遣されてきた所謂“借り物“である。もしその人物の怒りを買うようなことになれば……


 そう考えている間にガンザスとアレスによって『迅雷』のメンバーは全員、戦闘不能に追い込まれ、気付いたらバズは壁際に追い込まれていた。


「お前は見たことの無い面だな……で、どうすんだ? お仲間は全員地面でおねんねしちまったみたいだぜ」


 ガンザスが片手斧ハンドアックスをバズへと向けながらそう問いかける。バズは魔法はそれなりに得意だが、身体能力は一般人に毛が生えた程度である。もし、今ここで抵抗したとしても一瞬でねじ伏せられるだろう。


「わ、わかりました……」


 そう言ってバズは両手を上げて降参の意思を示す。


 勿論、表向きは……だが。


「貴方に聞きたいことがあります」


 バズを真っ直ぐ見据えながらアレスが口を開く。


「あ、あの……その前に彼らの傷を治させてくれませんか? 勿論、その前に拘束してもらってからで構いませんから……」


 バズが心配そうな表情で、ショートソードを構えたままのアレスへと懇願する。


「……」


 アレスは地面で倒れたままの『迅雷』のメンバーをそれぞれ一瞥する。確かに何名かは血をかなり流しており、このまま放っておけば出血多量で死んでしまうだろう。


「駄目だ」


「ガンザス……さん?」


 だがアレスが何かを言う前にガンザスが口を開く。


「そのドブ臭え演技を辞めな。何を企んでやがる」


 その言葉を聞いたバズは先程までの心配そうな表情から一瞬で無表情になり、ブツブツと文句を言い始める。


「……“転移“のガキの捕獲を邪魔する勇者糞ガキ。口ばかりでかく何の役にも立たない『迅雷カスども』。突然あらわれて人の計画をぶち壊す冒険者ゴミ屑……どいつもこいつもいい加減にしろよ……!」


 そして、突然激昂しながら魔法を放つ。


 ガンザスは舌打ちをしながらアレスを庇おうとしたが、バズが使用したのは攻撃魔法ではなく土壁アースウォールで二人を同時に壁の中へと閉じ込めたのだった。



 __________


「……(ピクリ)」

 お父さんが興味を示したようです。


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