第20話


 この世界の魔物には低い確率で特殊な個体が産まれる。ユニーク、特殊、亜種、呼び方はなんでもいい。ただ奴等は何かしらの特性を持って産まれる。どんな能力かは戦ってみないとわからないが、実は気づかないことも多い。

 例えば完全魔法耐性のゴブリンが居たとする、どんな魔法でも殺すことはできないがそれ以外は只のゴブリンだ。つまり斬ったり殴ったりすれば死ぬ。下手をすれば転んで打ち所が悪くても死ぬ。

 剣や弓の扱いに長けていたとしても、武器が棍棒しかなく新人冒険者に討伐される。

 どんなに厄介な能力も持っていることを知らなければ役にはたたない。


 逆に言えば自身の能力を自覚し、利用できる知能があればかなり厄介なことにもなる。


 今日、俺が殺した魔物にもそういう特殊個体が居た可能性はある。途中でやたら素早いゴブリンが居たんだよな。


 …あれは魔物に与えられた人間でいうところのスキルや祝福ギフトなんじゃないかと俺は思っている。

 こんなこと教会に聞かれたら五月蝿いだろうがな。


 神様とやらが人間だからとか魔物だからとか、そんな細かいこと気にしてるとも思えないんだがな。

 人間に勇者や聖女、スキル持ちが居るようにアイツ等にもそういった存在が居るのだろう。


「ごちそうさま」


 食べ終わった弁当の蓋を閉じて手を合わせる。アリアメルの作ってくれたお昼の弁当はかなり美味しかった。たまには草の上に腰掛けて食べるご飯もいいものだな、今度子供達とピクニックに行こうかな。

 アリアメルは家事全般ができて読み書きもできる…か、顔も整ってるし…世間にでたらモテるだろうな、将来彼氏とか連れて来たらどうしよう。

 我慢する練習とかしといた方がいいかもしれない…。


 暖かい日差しのなか、立ち上がり伸びをしてから街へと帰った。


 冒険者ギルドへ入ると朝と違い、いつも通りの喧騒につつまれていた。サシャの姿は見えないので休憩中なのかもしれない。

 嫌がられるだろうがメリンダの列へと並ぶと案の定嫌そうな顔をされた。


 俺の順番が回ってきたのでカウンターにちゃんと討伐部位を出すと物凄く安心された。別に普段から首を提出してる訳じゃないんだぞ…。


「『戦乙女』はもう帰ってきてるのか?」


「ええ、今は上で先輩やギルマスと何か話してるみたいですよ~。あ、グレイさんも気になります?『戦乙女』の人達美人揃いですからねぇ」


「そういう訳じゃない」


 ギルマスって略すなよ、一応お前達の上司だろうが。


「またまた~」


 なんだこのウザさは。


 家のことを聞こうと思っていたんだが違う日にしとくか、疲れてるだろうし。


 ウザいし(二回目)


「あれ、待たないんですか? もう降りてくると思いますよ」


「別にいい」


 俺は報酬を受け取り冒険者ギルドを後にした。帰ってきたばかりだからまた直ぐ遠征とかはないだろう、なら別の日に冒険者ギルドで聞けばいい。


 なんてこの時は考えていたんだが…。


 家に帰り、アリアメルに弁当美味しかったありがとうと伝えると嬉しそうに


「良かったです、また明日も準備しますね」


 と言っていた。お礼はちゃんと口でも伝えないとな。


 その日の夜、皆で夕食を食べて風呂へ入り寝るまでの間イスカ達とトランプで遊んでると家の扉がノックされる。


 誰だこんな時間に…。


「おい、今何時だ……と」


 俺は扉を開けて外を確認すると二人の女が立っていた。一人は長いストレートの金髪に碧眼の剣士、もう一人はウェーブのかかったシルバーブロンドに翡翠色の瞳のヒーラー。


 パーティ『戦乙女』のリーダーのエミリアとサブリーダーのカーシャ、俺の元パーティメンバーの二人。


 一体何しに…と思っているとエミリアが口を開いた。


「久しぶりだなグレイ。色々言いたいことはあるが…まずは…メリンダに聞いたぞ、お前我々がギルドの二階で報告をしていた時に一階に居たらしいな…いささか冷たいのではないか? もう少しで降りてくると聞いてもそのまま帰るなんて」


 メリンダの奴余計なことを!


「まあまあ、取り敢えずこんな所で話してたら目立っちゃうから家に入れさせて?」


 カーシャがそう言ったタイミングで後ろから声をかけられる。


「グレイさん、お客さんですか? お茶いれましょうか?」


 アリアメルが気を利かせて中から出てくる。


「んん?」


「あら…」


「え…と」


 何だこの空気は?


 ――――――――――


 気になるかなと思って今日二話目の更新。

 え、気になるのはこの後?

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