第7話


 感謝されるのは嫌いではない。

 人並みには嬉しいと思う、だが。


 これからエルダーオークの睾丸を取りに行こうとしてる時に感謝されるのは、何か複雑な気分になる。


 喜べ、まだ見ぬエルダーオーク、お前の雄の象徴はきっと加工されて貴族達の跡継ぎを作ることに有効活用される…。




 依頼のあった村に着くと外壁なんて無く、獣避けの柵が精々で今まで魔物はどうしていたんだ…というレベルだ。


 別にこいう村が珍しい訳でもない、小さな畑を耕し、一生村をでることなく生涯を終える…そんな人間は自分の住んでる場所に疑問なんて抱いたりはしない。


 そしてだ…


「……」


「……」


 気まずい沈黙の中、俺の目の前にいるのはこの村で一番美人で気立ての良いとされる娘だそうな。

 その娘は頑張って着飾った格好で、今晩の宿代わりにと宛がわれた家の中に立って、俺の顔を見てビクビクと怯えている。

 大方村長や村の大人達にこう言われたのだろう


「この村の為に一晩だけ我慢してくれ」


 と。


 普通なら当然嫌がるだろう、嫌がったけど周りに言われて渋々やってるのかもしれない。けど今のこの状況はそれでも受け入れたということだ。


 そしてこれは少ない依頼料の補填のつもりか。


 全くふざけている。

 確かに俺達のような冒険者は俺を含め粗野で野蛮な奴は多い。 だが誰も彼もガンザスのように下半身で生きてる訳じゃない。いやアイツの下半身事情とか知らないけど。


 ……そう言えばアイツ童貞さくらんボーイって噂あったっけ、考えてみたら俺の噂より酷いなおい。


 それはそれとして


 この状況をどう乗り切るべきか。


 ……いやもう普通に帰らせよう。


「おい、名前は?」


「ああああの……私マリナ…です、きょ、今日はグレイさんのお…お世話を…」


 ビビりすぎだよ畜生。


「要らん」


「…え?」


「必要ないと言った、明日も早いんだ俺はもう休むからそう伝えとけ。 お前も早く家に帰れ」


「で、でもそれじゃ…」


「心配しなくても依頼は達成する。 お前達は明日、明後日の自分達の食事の為に畑を耕していればいい。 俺がエルダーオーク(の睾丸)を仕留めたら、森の中で小さな動物を狩ることもできるだろう。 だからもう帰れ」


 休みたいのは本当なんだぞ…。


「……はい」


 マリナは少し悩んでから、そう小さく返事をして戻っていった。


 これが原因で彼女が他の村人から責められたらどうしよう。……いや、俺がちゃんと依頼を達成すれば済む話だな。


 ならもう明日に備えて休むか。


 俺はそのまま固いベッドに横になった。





 翌日、朝早く起きて準備をしていると誰かがドアを叩く。


「誰だ?」


「マリナです、グレイさん朝食をお持ちしました」


 朝食か…流石にこれを断る理由はないか。


「わかった、今開ける」


 ドアを開けると昨日とは違い、普通の村娘の格好をしたマリナが朝食のパンとスープを持ってきてくれた。


「おはようございます、昨日は…その」


「別にいい。 …朝食はありがたく頂く」


 マリナは要らないけど朝食は貰うみたいに見えるなこれ。 でも他にどう言えばいいかわからないしな。



 その後、朝食を食べて美味しかった、作った人にお礼を言っておいてくれとマリナに伝えると何故か少し照れていた。


 村人達に見送られながら村を出る時に、「どうかお願いします」と近寄ってきたマリナに頭を下げられたので手を振って答える。


 ま、午前中には終わるだろ。



 ――――――――――


 B級妖怪 玉置いてけ






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