先輩は吸血鬼

アラタ ユウ

学園都市編

第1話

 バイブレーターの振動音で目を覚ました。


 ベッドの端で落ちそうになっていたスマホを手に取り、目を擦って起き上がる。真っ白なシーツがずり落ち、自分が下着以外裸だったことに気がついた。


 ベッドから降りてクローゼットの扉を開き、洗っておいた制服の白シャツと黒いズボン、バスタオルを取り出す。昨夜の吸血で体にこびりついた血を流すため、着替える前に念入りにシャワーを浴びた。


 湯気の立ち上る浴室から出たら、水気を拭いて制服に着替え朝食を準備する。先輩は朝弱いくせに肉類を食べなければ一日動くパワーが得られないらしいので、結構がっつり用意する。今日はニンニク無使用のウィンナーを炒めたものと、目玉焼きにトマト。それに味噌汁と白ごはんだ。吸血鬼のくせして先輩は和食好きだから、白米は絶対に欠かせない。


「……さて」


 カラフルなランチョンマットにバランスよく二人分の朝食を置けば、準備完了。冷めないうちに食べろというし、そろそろ先輩を起こすとするか。


 寝室のドアをそっと覗くと、先ほど僕が寝ていたスペースは既に占領されていた。毛布がベッドの一箇所に毛玉のように丸まっていて、そこで先輩が眠っていることがわかる。

 静かに近づき、毛布越しに先輩を揺すった。


「先輩。おきてください」

「………」


 反応なし。プランBに移行する。


「起きろ! 先輩!」


 毛布の端を掴み、一気にベッドから剥ぎ取ろうとする。が、絹のように滑らかな黒髪と先輩の整った寝顔が覗いたところで、がくんと毛布が動かなくなった。


「マジか……っ」


 どうやら眠ったまま毛布を握っているらしい。女性とはいえ吸血鬼だ。僕のような貧弱な一般人では、到底彼女に力で勝つことなどできない。


 それならば。


「プランCを決行する」


 つぶやいて、頑固に寝坊を決め込む先輩に覆い被さった。寝る前に服を着ていたようでひとまず安心したが、これから始まることには全く安心できない。

 覚悟を決め、ゆっくりとシャツのボタンを外す。剥き出しになった肩をそっと先輩の口元に近づける。


「……っ!」


 予想通り噛みついてきた。鋭い牙が肌を貫き、空いた穴から結構な速度で血が吸い取られていく。頭の中が段々とぼんやりしてきたところで、「んー」と気の抜けた先輩の声。


「死……ぬっ!」


 三途の川が見えかけたので、首筋から全力で先輩を引っぺがした。牙を抜いた先輩はとろりと満足そうに瞼を開き、横たわりながら「おはよう」と言ってくる。


 吸血衝動を利用した目覚ましは非常に効果的だが、反面僕がエサになって先輩に血を上げなくてはならないという欠点があった。吸血されると途轍もなく体力が奪われるのだ。


「おいしかった」

「本当は……起きてたんじゃ……ないでしょうね」


 息を切らしながら問うと、先輩は小さな犬歯をきらりと覗かせて微笑んだ。

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