KEEP OUT!!―その山、入るべからず―
あきのりんご
起
共働きの我が家は、長期の休みに入ると一人息子の俺を田舎の祖父ちゃんの家に送り込む。
小学校低学年の小さな子供ならともかく、俺はもう五年生なのに過保護だと思う。
祖父ちゃんの住む田舎は、田んぼや山に囲まれた、『田舎』という単語に対して大概の人が思い浮かべるタイプの、隣の家まで数十メートル離れている田舎だ。
祖母ちゃんが生きていた頃は農業をやっていたけど、十数年前に亡くなってからは畑を小さくした。
たまに野菜を送ってくれるし、猟で捕った猪肉や鹿肉を送ってくれることもある。
もちろん解体も自分でやるから、祖父ちゃん家のガレージが血まみれになっていることもある。
祖父ちゃんは顔も身体も傷だらけで、さらに目つきが鋭いから初対面の人間にめちゃくちゃ怖がられる。
腕のいい猟師らしく、たまに熊が出ると祖父ちゃんが仕留めに行くと母さんに聞いた。
祖父ちゃんに聞くと、「今は猟師が少ないからな」としか言わない。
猟銃を見せてもらったこともある。
俺が手を伸ばすと、銃に触れる前に祖父ちゃんに手を捕まれた。
「資格のない人間に触らせちゃなんねえんだ。すまんな」
「そ、そうなんだ」
「おめえにはこっちを触らせてやろう」
そう言って精巧なモデルガンを出してくれた。
そして庭に的を立てて撃たせてくれた。難しくて的になんて全然当たらなかったけど。
少しだけ厳しいけど、とても頼もしくてかっこいい祖父ちゃんだ。
田舎はみんな知り合いだからいいけど、たまに祖父ちゃんが田舎から俺の家に遊びに来ることもある。
そのとき、近所の人に怖がられてしまう。
祖父ちゃんは強面で声も大きいし、都会の人にはああいうタイプは馴染まないのだろう。
でも、近所に住む女子高生には『おじいちゃんかっこいい~』と受けが良かったらしい。
そんなわけで俺は祖父ちゃんの家にいる。
田舎の家は無駄に広い。
広すぎて落ち着かないので、俺はいつも部屋の隅に座って携帯型ゲームで遊ぶ。
田舎の老人たちは開放的というのか、みんな勝手に家の中に上がり込んでくる。
だだっ広い和室の居間で、村の老人たちが集会を始めた。
今日の議題は、村の東側に位置する山下さん所有の山にゴミが不法投棄されるようになったという話題だ。
不法投棄していた連中は、以前は隣村の大きな池に棄てていたのだが、テレビ番組の企画で池の水を抜いて徹底的な掃除がされてしまった。
そのときに不法投棄の実態が世間に明るみになり、さらに貴重な在来種がたくさん見つかったことで、日本各地から研究者が訪れたり、警察のパトロールも厳しくなったそうだ。
それは俺も親が見ていたニュースで知った。
不法投棄していた連中は外来種もたくさん捨てていたようで、貴重な在来種を守ろうと山に人がたくさん訪れるようになった。
だから棄てる場所を失った連中は、こっちの山に棄てるようになったらしい。
祖父ちゃん家の居間で周辺地図を広げて老人たちは、山入口に立ち入り禁止札を立てるとか、パトロールするとかそんな話をしていた。
だから小学生の俺には関係がないと思ってずっとゲームをしていたから、話を全然聞いていなかった。
そろそろお開きかというときに祖父ちゃんは突然、俺を呼んだ。
「トモキ、おめえも手伝え」
「へ?」
驚いて間抜けな声を出すと、祖父ちゃんは黒いトランシーバーを俺に渡してきた。
「何これ」
「トランシーバーだ。知らんのか」
「いや、知ってるけどテレビでしか見たことなかった。スマホがあるからいらないよ」
「山ん中ではスマホの電波なんか通じん。チャンネルは変えるなよ。これで全員と情報共有が出来る」
「わかった。で、これで何をするの?」
「あいつらは決まった周期でゴミを捨てにくる。多分あと三日ぐらいでまたやってくる筈じゃ。お前はこれで奴らの居場所を儂らに知らせろ」
祖父ちゃん始め、老人たちの眼光がいつも以上に鋭い。
と思ったらみな、ニカッと金歯を輝かせて笑った。
「トモキ君は儂らより目がいいからな。期待しとるぞ」
「あんな不法者たち、早く追っ払ないと」
「奴らに目に物見せてくれるわい」
それは悪役の台詞じゃないか。
それだけ奴らに腹を立てていることはわかるけど。
ただ、集まった爺さん婆さんたちの顔を見ると、みんな不法投棄する連中への怒りもあるけど、それ以上にイキイキしているように見えた。
「わかった」
俺はわけもわからず、そう言うしかなかった。
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