真夜中のタバコ

いと

真夜中のタバコ




私、タバコ始めたの。



それを必ず真夜中に吸うの。






バイト帰りの真夜中に、



排気口から漂う匂い。



私の帰りを待つ匂い。



「ああ、今日も貴方がいる。」



私の心を躍らせる匂い。






タールはたった1mg。



貴方はそれを吸い続けた。



「吸わなきゃいいのに、なぜ吸うの?」



私が貴方に問いかけると、



「タバコは好きでやめられない。」



貴方はそう答えていた。



けれど私、知ってるの。



貴方はタバコ、吸わない人。



「お前のために軽いタバコ」



貴方はそう言ってたけれど、



「前の彼女のお気に入り」



私はそれも知っていた。






貴方は突然いなくなった。



前の彼女が現れたのね。



1mgの嫌な臭い、



部屋に染み付き、取れないの。



カーテンも布団も絨毯も、



買い替えたのに、染み付いてる。



臭いは真夜中に現れる。



貴方はもう、いないのに。



煙はもう、出ないのに。





だから私、吸い始めたの。



3mgのメンソール。



肺には絶対入れないわ。



貴方のせいで、汚したくない。



モクモク、モクモク、新しい煙。



貴方の知らない、強い煙。



貴方の臭いを上書きして、



排気口から伝えるの。



「私はいつも願っているわ。



 真夜中のニオイのその意味を、



 考えて、悩んで、苦しんで。」






貴方の臭いはもう消えた。



もう、この部屋は、私のもの。



けれど今日も真夜中に、



私はいつものタバコをふかす。



あ、こんなところにタバコの跡。



貴方のものか、私のものか。



貴方のものなら嫌だから、



上からジュッと押し付ける。



むしゃくしゃしたから、もう一本。



…ああ、肺に入ったかも。



煙って、こんな苦しいのね。



思わず涙が出てくるわ。





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真夜中のタバコ いと @shima-i

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