電波障害
ガシャーンとガラス瓶の割れる音、飛び交う罵声や煽り文句、ここは反政府デモの行われている国道24号。暴徒化した群衆が政府の要所に詰めかけているという通報を受けた第2機動隊と警視庁に向かっていた3万弱のデモ隊が3時間近くにらみ合いを続けている。既に消防庁、交通本局、国鉄運行局がデモ隊に制圧され、各所にある無線交換所が暴徒達に攻撃され、1部警察や消防と鉄道運行に使用されている無線がつながらなくなっている。
「こちら警視庁第2機動隊! 本庁へ、群衆は火炎瓶を使用している。装甲車を要請したい!」
「…………、……………………」
無線の返答はノイズにかき消され聞こえない、近くの交換所が防衛信号を発信していたのでおそらく陥落してしまったのだろう。国の法律の中で警察はかなり弱い立ち位置にあり、基本的にデモへの対抗は銃火器を使うことができず、ライオットシールドで進むのを妨害することしかできず、直接的な妨害をしてはいけないため進まれるとジリジリと後退するしか術がない。重武装で対抗できるのは特殊部隊の装甲化部隊だけなので指揮隊長はそれを要請しようとしたのだ。
「1台pcは本庁に戻って装甲車呼んで来い! 突破されるぞ!」
指示が飛んでパトカーが1台本庁方向に走っていく。おそらく20分くらいはかかると思ったので何とか遅滞しようと試みる。
「火炎瓶って製造禁止されたから資格者のところも毎月検査があるんじゃねぇのかよ!」
シールドを立てている警官が同僚に聞く。聞くというよりは疑問に思ったことを叫んだだけにも聞こえるが、
「知るか! 検査員が賄賂貰ったか向こう側かだろ! どっちにしろ期待するだけ無駄だよ!そのうち銃で持ち出されるかもしれねぇ」
「おいおい、縁起でもないこと言うなよ。角度によっては俺らの盾は貫通するんだぞ!」
銃は取扱い免許と資格等級によって買える銃の種類と弾薬が変わる。もし高威力の弾を買える”クラス8”以上がデモ隊にいるとすれば機動隊は命の危険にさらされる。ちなみに警察官は一般でクラス2(拳銃以下)機動隊でクラス5(マシンガン以下)特殊部隊でクラス9(スナイパー以下の銃火器)軍隊でクラス10(特殊銃火器可)というような資格を持っている。もちろん個人でそれ以上を取りに行くこともできるので一般警官だがクラス5を持っていたりもする。しかし、警官が取れるということは一般人も取れるということだ、勉強すればそれなりに簡単にとれる。国会でその銃の規制強化と海外派兵の承認がデモの発端となっているため、もしかしたらいるかもしれない。と、群小の先頭からチカチカと嫌な光が見えた。次の瞬間シールドに着弾する。幸いカカカカンと弾は全弾はじいたようだが、どう考えてもマシンガンクラスの発射レートだ。機動隊員に緊張が走る。
「おいおいやばいぞ!」
「特殊部隊はまだなのか⁉」
さらに遠くからドンという重々しい音と、次にヒュ~という風切り音がし、機動隊の敷いている規制線の真後ろにズドンと音を立てて何かが降ってくる。それは明らかに砲弾の形をしており、側面に”58ミリ”と刻印がされている。
「58ミリってどこの軍だ!!」
「バカ58はどこも今使ってねぇ。あるのは高射陣地の記念砲だけだ……」
58ミリ高射砲、旧帝国軍の使用していた高射砲で、本土空襲の際の防衛のかなめだった。それがいま撃ち込まれているということだ。指揮長は慌てて無線に怒鳴る。
「高射砲陣地が利用されている! 軍に要請をかけろ! 」
次に周波数を変え再び無線を取る
「中央軍58ミリが勝手に利用されてるぞ! あれを黙らせてくれ!」
帰ってくるのはザーというノイズだけ。この周波数は無線局を介さないため本来なら繋がるはずなのだが……
ヒューという風切り音が複数聞こえ始め、ドン ドンドンと再びあの音が聞こえる。さっきよりも重い音だ。瞬間、地面を爆発しながら機動隊員ごとえぐり取っていった。黒焦げになった隊員の遺体が指揮車の前に転がってくる。
「くっ、撤退! 撤退!! 全員後退しろ!」
指揮車が撤退をはじめ、規制線を張っていた隊員も走って後退を開始する。群衆は変わらず罵声を上げながらジリジリと警視庁へ向かう。第2機動隊の防衛線はついに破られてしまった。
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