第43話「ぼっちに下る、陽キャからの指令」

 この学校の女神様──『真城美桜』の誕生日まで、後1週間と少し。

 日に日に近づく彼女の誕生日当日に向けて、廊下では同学年に関わらず、学年の幅を飛び越えてまで話し合う男子達の姿があった。


 こういうのを目撃する度、本当に美桜は人気者なのだと自覚する。

 これを放って置ける美桜はさすがだな……。



「それにしても、どこに耳を傾けても真城さんへのプレゼントの話で持ちきりだな」


「そりゃそうだろうな。学校のイベントに成り上がるぐらいだし、何しろ生徒だけじゃなく先生までやる気らしいからな」


「マジ!? いい大人が、何1人の女子高生相手にみつごうとしてんだよ……」



 言い方はあれだが……まぁ根底として間違ってないので何も言うまい。

 呆れて物怖じする伊月に、僕は更に追い討ちを仕掛ける。



「悪い大人って、こういう人達のことなんだろうな」


「明日からオレ、先生達が信用出来なくなりそう……! ……ん? 待って。何でお前が生徒のことならまだしも、教師陣のことまで把握してるんだ?」


「コレだよ」



 僕は開いているスマホ画面を伊月に見せる。

 そこには『三浦みうら高等学校 裏サイト掲示板』と表示されている。


 それを見せた直後──伊月は僕のスマホを乱暴に取り上げた。

 伊月の表情はかつてないほどに動揺している。まぁ裏サイトなんて、都市伝説っぽいところあるから仕方ないか。



「げっ……! この学校、裏サイトなんてあったのかよ!」


「知らなくて当然だよ。使ってるのは主に上級生だからな。裏サイトなんて古典的なもの、どの学校にも存在はしてるだろうし、不思議でもない」


「肝座ってんな……ってか、よくこんなの見つけたな」


「……偶々だ。サイト開いたら、偶然これがヒットした」


「それ、裏サイトじゃなくね……?」



 偶々ヒットした……なんて、本当は嘘だ。


 実はこの裏サイト──入学当初から人気のあった彼女のことを、悪く言われていないかどうかを確認するために、ある方法で


 警戒心があるようで無さそうな彼女を影からサポートするのが僕の立ち位置。

 表での自主的行動を移せない僕に出来ることは……これぐらいだ。



「んで、どんなのが書かれてんだ?」


「……目立つことはあまり書かれてない。1つ、宗教っぽいのは見つけたんだが……日本はどの宗教に入ろうとも自由だからな。気にしないことにした」


「あぁ……うん、わかった、訊かないでおく」



 さすが伊月だ。僕が言わずとも、どういったことが書かれていたのか察したらしい。

 カノジョ持ちだと、そういう勘なんかも働いてくるんだろうか。



『学校裏サイト』──それは、ある特定の話題を扱うコミュニティサイトだ。学校非公認ということもあり、普段は部外者が立ち入れられないよう厳重なパスワードが設定されていたり、携帯電話でしかアクセス出来ないなど。用途は様々だ。


 しかし表向きはただの“掲示板”としての役割を担っていることが多い。

 紛れ、やり過ごす。──それがお決まりの使い方だったらしい。

 そのためもあってか、一時期話題にも取り上げられていた。


 裏サイトを作る奴らの気も知れないが、それを使用する奴らも気が知れない。

 ある一定の目的──それだけのために利用するのは、あまりにもリスキーだ。使用はオススメ出来ない。


 が、それでも僕は使用している。


 特に目的もなく、ただ『開設者』として非合法に使われているのが納得いかないため、敵情視察がてら始めた監視のためにこうしてログインしている。

 近いうちに削除しようと思っていたのだが、せっかくなので今の時期だけ利用させてもらっている。


 ちなみにだが、伊月は僕がこの裏サイトを作った張本人だとは知らない。

 ……変なところには気づかれてしまっているが、秘密の1つは重箱に保管されたままだ。


 伊月は取り上げたスマホを僕に返却した。



「けどそっかぁー。人気者だと、表とは違って裏で陰口を言う人とかいるからな」


「表がこれだけ平和だと、逆に内層が気になる……人間の本能だろうな」



 人は言い訳をしないと生きていけない。


 真っ直ぐで、純粋でというのが珍しいのだ。美桜なんかがまさにそう。機嫌が悪いこととかを隠すのが苦手で、嫌いで。


 だから、そんな彼女を叩く人が今までいなかったわけじゃないのだ。


 横でスマホを操作しながら、あるネットを開く僕に伊月は近づく。……近いっ!



「──本当に、渡さない気か?」


「……何で」


「だってさ、あまりにも真城さんが不憫ふびんすぎて……オレ、助言しちゃいそう!」


「キモっ……!」


「今までの何倍以上も引いてんじゃねぇよ!」



 いや……そりゃあ目の前の男子がいきなり百面相すれば誰だって驚くだろう。


 僕が開いていたのは、“同年代の女の子が喜ぶプレゼント”というサイト──如何にも、という感じだったようだ。



「……渡す以前に、どんなのあげたらいいか、わかんねぇし」


「それこそ何言ってんだよ。お前ら最近、登下校一緒な機会多いしチャンスなんて幾らでもあるだろ!」


「………………」



 正論を突かれてしまった。反撃する余地もない。

 それに、これ以上の反論は危険かもしれないと脳内が叫んでいる。


 僕の家に美桜が居候していることは、絶対に秘密にしなければならない。たとえ信頼出来る人物にでもアウトだ。


 誰かに話した──その事実は、いつどこで『噂』という形に変えるかわかったもんじゃない。極めて危険なのだ。



「はぁぁあ……。わかったよ。それで、要求は何だ?」


「おや。気づいてたか。さすが、オレの親友は話が早いなぁ!」


「茶化すな」


「悪い悪い! オレが求めるのはただ1つ──お前らの関係性の進展だよ!」

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