第22話「ぼっちは体育を見学したい」
本日の最初の授業はよりにもよって体育。
朝っぱらから身体を動かすことを要求してくるとは、僕は運動部ではないのだが。
「浮かない顔だな! さっさと着替えろよ! それとも、見学か?」
「いっそのこと忘れ物して見学したかったよ……」
ノリ気でなくて何が悪い。
勉強が苦手な人が存在するのと同じように、身体を動かすのが苦手な人だって存在するんだよ。
如何にも体育やる気満々なこいつ——村瀬伊月は、僕の唯一の男友達と言っても過言ではない。クラスこそ違うが、体育は2クラス合同授業。そのため隣のクラスである伊月が僕のことを迎えに来ているのは必然な出来事だ。
「何だよ。そんなに体育嫌いだったか、お前?」
「好きでも嫌いでもない。種目による」
「確か今日は……バスケだったか?」
「……休もうかな」
「お前バスケ苦手じゃないだろ。だったら出ろ! 人数が足りなくなる!」
体育の試合での人数合わせこそ、優越感を感じるものはない。
例えば、いつものレギュラーメンバーの内、誰か1人が欠席又は見学でいないとしよう。そうすると出てくるのは——埋め合わせ。つまり、補欠的な奴だ。
メンバーの補充と言ってもいいだろう。
僕はそんな優越感を感じるようなことだけは絶対に避けたい。
それも、怪我とかをしやすい球技系の競技は特に。
特段スポーツが苦手というわけではないけれど、それとやる気の有無は比例しない。
それに、だ。
バスケであればわざわざクラスの人とも親しくない僕が出向くことはないだろう。
何しろ目の前に——運動バカがいるからな。
伊月は中学の頃からバスケ部に所属し、そこからバスケを習い始めた。元々運動センスは抜群で、ちょくちょく助っ人なんかも頼まれていた。
これこそが、ザ・陽キャ。
お手本の中のお手本だ。
僕には到底届かないような領域の人間である。
「……お前が出れば、男子5人と相手出来るんじゃないか?」
「お前なぁー……。いくらオレがバスケ部だからって、その要求は無茶苦茶だぞ?」
そんなことなさそう。
寧ろ『面白そう!』と顔に書いてある気がするのは僕の勘違いか?
「けどそうだなぁ。例えオレが1人で5人を相手にすると仮定しよう。その場合、本番の試合よりも疲弊するのが手に取るようにわかるんだが?」
「いいじゃないかそれで」
「オレを殺す気なのかお前は!」
「ただでさえ体力が余りまくってるんだ。そういった場で発散するのも、1つの手だと思うが?」
「オレの体力はストレスじゃねぇんだよ!」
似たようなもんだろ。
と、僕は心の中で呟いた。
「……そういうお前はどうなんだよ、バスケ。苦手じゃなかったら、何なんだ?」
「さっきも言っただろ。好きでも嫌いでもない。アレだな。体育の義務感というか、あれこれと決められた競技を卒なく
「悲しい奴だな、お前……」
何故か同情されたんだけど。青春謳歌しまくってるお前にだけは同情されても嬉しくない。寧ろムカつくんだけど。
「いいんだよ、僕は目立たずに卒業したい」
「んなの無理だろ。学校の女神様が『幼馴染』である時点で、お前のぼっちライフは終わりの鐘を鳴らしたも同然だ」
「……バレなきゃ平気だろ?」
現に今、僕達は極力変な触れ合いはよしているし、周りにも配慮している。
『僕のことを知りたい』と駄々っ子な美桜相手でも、せめてメールでの連絡手段しか許していない。
それ以上は本当に無理!
天地がひっくり返るレベルで無理すぎる!
「いやいやいや。案外、情報というのは網を張っているからな。いずれかは、お前らが幼馴染であることなんて、すーぐにわかっちまうだろうよ!」
「……恐ろしいな、現代社会って」
確かに、これから先も……と考えると不安な部分も多々存在する。
隠し通す自信はあっても、それはあくまで根性論。
現実問題を提示された際に、どうこう出来るわけではない。
もし——彼女との関係性が露出してしまった場合、今の僕ならどう対処するだろうか? 放っておくという選択肢は僕のポリシーが受けつけないだろう。
そうなったら……僕はどうするのだろうか。
「ま、こんなのは『もしも』の話だ。学校での接触をするか否かは、お前らで決めればいいし。何かあったら、オレっちが協力してやるよ!」
……こいつ、こんなに頼れる奴だったか?
普段はもっとイラついて、突き放したい系のわんこだというのに。どうして今は、こんなにもこいつを『頼ってもいい』と安心出来るのだろうか。
さてはこいつ、少女漫画の主人公だろ!
絶対にそうだ。
バスケ部と言い、カノジョ持ちと言い。
少女漫画では絶対お決まりな王道設定付きの男子高校生だ。きっと前世はいい行いをしていたに違いない。
なむなむ。
「おい、どうした? 急にオレ相手に拝んだりして」
「何でもない。……まぁ、その時が来たら、何かしら対処するよ」
「出来んのか? 陰キャの中の陰キャなお前が」
「人の性質とかは関係ないんじゃなかったのか?」
ついこの間、そんなことを聞いた気がするので言ってみる。
「まぁな。基本的には気にしねぇけど、使うときはどうしても心配なときだからな」
「へぇ。僕の心配してくれるのか」
「当たり前だろ。友達だからな!」
つくづく羨ましい奴だと思った。
他人は他人と分け隔て、互いに干渉のし過ぎには注意するものだろう。友人関係だけじゃない。家族ぐるみの問題とかがそうだ。『家族の問題に他者が首を突っ込むべきではない』とお決まりな台詞さえ、こいつは無造作に飛び越えてくる。
相手のことを如何に考えているか——それが、人間関係を左右させる要因となる。
きっと伊月は、前途多難なことにさえ向かっていくタイプだな。
迷うことはあっても、迷宮入りはしない的な。やっぱ、ラノベの主人公だわこいつ。
「ほらほら! 早く体育館行こうぜ!」
「……見学」
「諦めろ!」
諦めたくないんだよこちとら!
いくらお前のことを『人間』として尊敬出来ても『尊敬』は出来ないな、うん。
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