第8話「女神様はぼっちのことが知りたい②」

「……そろそろ寝ましょう。明日は学校ですし」


 美桜は壁掛けされた時計を見ながらそう言った。

 確かに、明日からまた1週間の学校生活。月曜日だからこそ、しんどいものがある。


「そうだな」


「それではお邪魔して——」


「入れるわけないだろ。大人しく僕のベッド使え」


「……ケチですね。男子高校生としての本性を剥き出しにしたっていいんですよ? ほらほら。こういうシチュエーションが好きなんですよね?」


「……っ!! さっきから思ってたけど、どこ情報だよそれ!」


村瀬むらせ君情報です」


「あいつかぁぁ……」


 明日学校で会ったら容赦なく蹴り入れてやろう。

 例え男子の中の勝ち組であったとしても、イケメンだからだろうと僕には関係ない。

 あいつの性格の悪さは天下一品。今のでよーく理解した。


 あいつめ……! ただでさえ天然熟しな美桜が変な知識を学習してしまったじゃないか! 絶対に詫びさせる! 日頃のことも一緒になっ!


「と、とりあえず、それは誤報だから……信じるな」


「湊君がそう言うのなら。では、おやすみなさい」


「……おやすみ」


 部屋の照明を消し、僕は敷布団で、美桜は僕のベッドの上に横になる。

 さすがに、仮にもお客さんである美桜を、床で寝させるのにはいささかか抵抗があり、最初は拒否され続けたが結局はねばった方が勝つ! 最終的にはベッドで寝てもらう、ということに落ち着いた。


「…………」


 ……な、なんだが、妙に落ち着かないな。

 普段だったら1人であるはずの部屋に、もう1人の人間がいる気配に、眠気が妨害されてしまっているのだろうか。


「……湊君」


「は、はいっ!」


「まだ、起きてますか?」


「え、う、うん」


 さっきの裏返った声を聞けば誰だって『起きている』とわかるはずだが。

 そこを聞いてくるあたり、美桜らしいな。


「で、何か用?」


「……さっきも言いましたが、私は湊君のことをもっと知りたいです。こうやって、1つ屋根の下で過ごせるのに十分感動していますが、私は学校での湊君のことも、もっと知りたいと考えています」


 そ、そんな、小論文みたいな言い方しなくても……。


「ですから、これからも少しずつでいいので、話しかけても大丈夫でしょうか? 嫌であるなら、拒否してくれても構いません」


「…………」


 美桜は、僕のことを考えてくれている。

 不器用さが多々残るけれど、それでも、精一杯僕のことを考えてくれている。そこに、ちょっとずつ自分を加えていることに変な感じはするけど。

 ……だったら、僕が答えてやれることは——


「……いきなりは、やめろよ? せめて、昼休みからで……頼む」


 関わりを捨ててきた時間は取り戻せない。

 ならばその分——彼女と過ごして、取り戻していけばいい。

 こんな機会、もう無いかもしれないのだから。


「……ありがとうございます」


「……おう」


「それでは、おやすみなさい」


「……おやすみ」


 今度こそ、寝息を立て始めた美桜。疲れからか、びくとも動かない。

 ……やばいな。色んな意味で。うん、本当に。

 これからの美桜との同居生活に、新たな悩みが産まれてしまった……。



 ——寝る時、やっぱリビングで寝よう。天女の横で寝たくない!

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