第7話「女神様はぼっちのことを知りたい①」
「……湊君。そろそろ、許してもらえませんか? それに、最初に『タオルは巻いてある』と言いました。聞いていなかった湊君にも落ち度はありますよ?」
「……心臓に悪い。ダメなものはダメだ。タオル巻いてても落ちたら意味ない。……だから、あんなこと、もう二度とするなよ?」
「はい。わかりました」
しょぼんとしながらも、自ずと聞き入れてくれているようだった。
この女神様は……一体何を考えているのやら。
僕のことをおちょくっているような様子もなく、どこか真剣に僕のことを考えてくれているような——ここまでわからない美桜は、初めてだ。
「……なぁ美桜。なんで、家出先が僕の家だったんだ?」
「……湊君の家に来るのは、迷惑なことでしたか?」
「あーいや。別に迷惑とかではないんだが……、その、純粋に気になったというか。お前を無償で泊めてくれそうなの、他にもいるだろ」
例えば、僕の友達……みたいな奴とか。
あんまり話しているところは見たことないけど、無関係ではないはずだし、知り合いではあると思う。
そんな中で、何故に学校では関わりが少ない僕のところを選んだのか。
「……わざわざそれ、訊きますか?」
「えっ、ダメなのか?」
「……そういうことを言ってるわけではありませんが。そうですね。敢えて理由をあげるとするなら、今私がここに居ることが理由です。わかりますか?」
「えっと……幼馴染、だから?」
「……バカ」
えぇぇ……。なんで僕、美桜に拗ねられなきゃいけないんだ?
普通に考えよう。
女神様は学年の中で最も人気がある美少女だが、その実、友達と呼べるようなクラスメイトは僕以外には存在しない。
悲しいことと感じるかもしれないが、美桜にとっては痛手にもならないことらしい。
どれだけ世間常識が身についた(自称)としても、コミュ障には変わらない。
そのため、頼れる相手は幼馴染の僕だけ。……と、こう結論づけたわけなのだが、この女神様の反応を見るに、おそらく違っていたのだろう。
「……まぁ確かに、私が湊君以外に頼れる人がいないというのも本当のことですが、それだけの理由で、幼馴染と言えど押しかけまではしませんよ」
「じゃあ……どうしてなんだ?」
僕が訊ねると、少しの静寂が場を支配し、やがて美桜は口を開いた。
「……私は、湊君ともう少し関わりたいのです」
「……えっ?」
「湊君は私のためと、変な噂が流れないように私との距離を空けているようですが、そんなの自分自身のためでもありますよね?」
「うぐっ……!」
ば、バレていらっしゃる……。
僕が学校で美桜との接点がないのは、美桜のためだけではない。僕自身のためでもある。ま、まぁ……どちらかと言えば、前者の方が多いんだけど。
今どきの高校生だったなら、グループという輪が出来ることが多い。『カースト』と言えば正しいのだろうか。
男女との差別化もはっきりとしてきて、男子は男子と、女子は女子と話すことが普通であり、男女で話すというたったそれだけのことに“特別視”をし出してしまう、そんな思春期の時期でもある。
僕と美桜がまさにそうだ。
男女で話す。それだけのことで、変な目見られてガチになってしまう。
思春期の男子高校生とは言えど、感じ方は人それぞれ。僕のように、“特別視”されたくないと思ってしまう人もいれば、そう思われたい人もいる。
……そういう風に、変な目で見られることが嫌なのだ。僕自身も。美桜が僕のようなぼっちと関わっているということを、小馬鹿にされてしまうのではないかという仮想も。
「湊君が、私のことを大事にしてくれているのは本当に嬉しいです。ありがとうございます。けど、それ以上に、昔のように湊君と関われないのが嫌なのです」
「……美桜」
「私は噂だとかは気にしません。私が『正しい』と思ったことを行動することの何が悪いというのですか? 湊君は私の……幼馴染です」
「今の間はなんですか」
「とにかく、です。私は、湊君のことをもっと知りたいのです。小学生の頃より変わっていることも多いと思いますし、変わっていないところもあると思います。——そんな、今の湊君を知りたいです。そのために、上がり込みました」
「そういえばほぼ強引だったな……」
思い上がる、本日の昼頃の出来事……。
『……家出してきた』って言って、いきなり訳のわからない家出宣言をされて。けど、今考えるとあれは、僕に自分を家の中へ入れさせるための根拠にしたてた、とか。
……って、それは考えすぎか。
「ダメですか? こんな理由では」
「こんなって。まさか、家出の理由って、これなのか?」
「安心してください。家出の理由はまた別問題です。今は、湊君の家にやって来た理由を述べたに過ぎませんから」
「大問題なんですけど。今さらっと問題発言したんですけど!?」
「……思春期には色々あるものです。干渉のしすぎはよくないですよ?」
「いずれかは話してもらうから問題ない!」
だってそういう『約束』だったはずだもの!
頑固で、自分が一度決めたことは絶対やり通す——そんなお前だから、理由を訊くこともせずに無償で僕の家での同居を許した。他の奴だったら、多分、いや……絶対やってない。
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