まよなかさん

紫風

まよなかさん

 草木も眠る丑三つうしみつどき

 丑三つ時とはいつのことか。

 の刻は午後11時のこと。十二支1つ分の刻は2時間で、うしの刻は1時から始まる。ひとつ時は30分で、4つ過ぎると次の刻にいく。

 丑三つ時は、丑の3つめで、午前2時から2時半までの間なのである。

 真夜中もいいところである。


 家人や街が寝静まった深夜2時。

 この時間が、私の一番動きやすい時間である。

 人間には、交感神経と副交感神経があり、それは夕方5時に入れ替わる。

 画家などアーティスト方面のひとが、夜中が動きやすいのは、創作活動に適しているのは、行動の交感神経よりリラックスの副交感神経が優位の時だからである。

 とある大歌手で画家でもあるひとが、作品は夜中2時ごろから描くといっていた。

 理にかなっている。


 もちろん自由業の人や学生はまだそれでいいが、一応明日も仕事がある社会人としては、夜中活動型というのは、いささかよろしくない。

 休日に寝溜め、は出来ない。

 あれは睡眠負債を返してるだけで、溜めてるわけではないのだそうだ。


 それでも私は、夜が好きだ。





「まよなかさん」

―― よんだかい

 夜の帳の向こうから、闇がむくりとふくれあがる。

 闇のかたまりは、まよなかさんという。

「呼んだわけじゃないんだけどね」

―― そうかい

「呼んだんだけど」

―― そうかい

 まよなかさんは、何も拒否しない。

「まよなかさんといると、気持ちがいいんだ」

―― そうかい、そこにいたらいい

「うん」



 まよなかさんが行く。

 あちらこちらの夜の闇から。


 眠れずにぐずる子供がいる。

 むくりと闇で優しく包んで、夢の国に連れていく。


 危ない目にあっているひとがいる。

 むくりと闇で包んで、危険から遠ざける。


 眠たい目をこすっているひとがいる。

 状況が許すのなら眠っていいのだと、闇で包んであげる。



―― しんぶんはいたつのあしおとがきこえる。ひがのぼるじかんになるよ

「日の出が早くなったね」

―― おやすみ おやすみ

「おやすみ、まよなかさん」

 むくりと闇に包まれて、私も目を閉じる。



 おやすみ おやすみ まよなかさん



END.

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まよなかさん 紫風 @sifu_m

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