5.京都・貴船神社 真夜中

 呪い返しは真夜中でないと効かないという。私は午前二時に、絵馬があった奥宮に着いた。本で調べた服装をしていた。白い着物に、白い鉢巻き、白い草履。そして、手に木槌とあの呪いの絵馬を持っていた。


 私は懐中電灯を頼りに、真っ暗な奥宮の中を進んだ。奥宮本殿の左側、ちょうど結奈ゆいなの呪いの絵馬があった場所の対面に懐中電灯を当てた。大きな石が鎮座している。懐中電灯の光の中に立て看板が見えた。『御船形石』の文字が光の中に浮き上がった。ご神体のタマヨリヒメノミコトが乗っていたとされる『黄船』がこの石の中の隠されているという。貴船神社の名前はこの『黄船』から来ているのだ。


 私は懐中電灯の明かりを消した。真っ暗な闇が広がった。手探りで、あの絵馬を『御船形石』の表面に押し当てた。そして、木槌で呪いの絵馬に刺さっている釘を『御船形石』に打ちつけた。ガッという鈍い音が漆黒の境内に響いた。そして、私は呪文を唱えた。


 「逆しにおこなうぞ。逆しに行い下ろせば、向こうは血花に咲かすぞ。・・・七つの地獄へ打ち落とす。・・・おん・あ・び・ら・うん・けん・そわか」


 一回呪文を唱えるごとに、私は木槌で『御船形石』に釘を打ちつけた。これで、この絵馬の呪いは、呪いをかけた結奈に降りかかるのだ。


 真っ暗な奥宮に呪文と釘を打つ音が繰り返された。


 私は朝まで一心不乱に呪い返しを繰り返した。「結奈、私でなく、あなたが死ぬのよ」と心の中で繰り返しながら・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る