第5話 DD①

 私は家に帰ると、必死になって、渡された参考書と3人から受領したLOIを熟読した。


 第3回講座までは1ヶ月しかない。


 LOIを送ってくれた男性3人は、書類上の記載事項だけを見ると甲乙つけ難かったが、全員と一度づつ食事にいった結果、圧倒的に好印象の男性1人に絞り込まれた。


 理由は明確ではなく相性の問題だけど、会話しているととにかく楽しいんだよね。


 こうして、デートを終えた私は、他の受講生たちと一緒に第3回講義に集まった。


「では、みなさん候補者を一人に絞り込んだわね」


講師が確認し、みんながハイと答える。

みんな……すごいわね。やはり、アインのAIマッチングがうまくできているのかしら。


「では、本日はこの次のプロセスを説明します」


 講師は、黒板に『DD:デューデリジェンス』と書いた。


「M&Aであれば、売り手企業はDDと呼ばれる企業調査を受けて、徹底的に会社のすべてを調べ上げられることになります」


 ひえー、なんか怖そう……


「婚活でも同じで、これからあなたたちにはDDを受けてもらいます」


 きたー、どんな監査を受けなきゃいけないんだろう……不安だ。


「ですが、婚活は買収のように買い手と売り手の関係ではなく、合併に近いお互い対等の関係ですので、お互いがそれぞれ相手をきちんとDDすることが大事です」


 そっか。そりゃそうだ。お互いに相手をよく知らないと結婚なんてできないもんね。


「M&AにおけるDDでは、書面調査だけでなく、実際の事業所がある現地まで行ってすべてをチェックします」


 現地まで足を運ぶんだ。

 そりゃそうか、事件はいつも現地で起きるんだもんね。


「あなた方も選んだ候補者相手に、DDを受けてきてください」


 講師は真面目な顔で続けた。


「忘れないでね。相手もあなたをDDするけどあなたたちもしっかりと相手をDDしなさい。それで、やっぱり合わないと思ったらしっかりと断ること」

「はい」

「婚活は結婚がゴールじゃないの。第一回講義で描いたビジョンを実現させること。その手段が婚活であり結婚なの。だから、結婚ありきで妥協してはダメよ」


 ここにきて、なかなか真面目なことをおっしゃる。

 さすが、大手外資投資銀行FLのEDだ。


 ところで……


「先生、具体的にDDや現地監査って何をするんですか?」

「テキストに書いてある通りよ。まずは、インタビュー。デートを重ねて会話をすること。その後は……」


 講師は一息入れて答えた。


「セックスすること。肌と肌で触れ合って、お互いの心と体のすべてをチェックして、相手と分かり合えるかを確認してくるのよ」


 ええー?いきなり、そこまで行っちゃうんですか?


「もちろん、順調にいけるかはあなたがた次第です。でも最強のアイテム『デート虎の巻』を渡しておくわ。この本をしっかり読めば、うまくいく確率は若干上がるはずよ」


 ……デート虎の巻……本当にそんなすんなり上手くいくのかしら……

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