第6話
6.
2555年4月2日(水) AM10:00 関東星系 惑星日本 日本軍参謀本部 参謀長執務室
「まさか自分が生きているうちにこのような事が起きるとは…」
日本国 防衛省 参謀本部所属 参謀長 タケルは執務室内で今朝発生した、異星人上陸部隊との交戦記録を読み終え天を仰いだ。
日本人類の命と平和を担うという防衛省のトップという重責に、あまり強くない胃がキリキリ痛む。
先月の今頃は、レーダー等を用いた電子誘導兵器を禁止とした条件下での戦争を実施したところ、ある企業により、人間の頭をミサイルに取り付けることで誘導を可能にする、特攻ミサイル神風君なるトンデモ兵器が登場、戦場を人の頭がついたミサイルが飛び交うという、とんでも事態に頭を抱える羽目になったのだが、今となってはそれすらも笑いごとだ。
日本の総人口10億人、そのうち7割が無職、約3割が会社で仕事という名目で好き勝手に研究開発を行っている会社員、そしてわずか数百人たらずが国家に奉仕する公務員となる。
そんな絶滅危惧種扱いに近い公僕として、未知の敵を想定し、有事に備える防衛省の平時の仕事は、専ら企業とその傭兵によって行われる戦争のバランス調整だった。
正確にはルールという形で様々な条件を設定、その条件下で開発される新兵器、新戦術を分析する事で、本当に未知なる敵が現れた時に備え、情報を蓄積するのが主な仕事であった。
とはいえ、あまりにもガチガチにやりすぎるとクソゲー扱いされて、戦争の参加者自体が少なくなってしまう。
AFや拠点コア破壊といったウケのいい兵器やルールを取り入れつつも、人間が想像し得る様々な条件を考え試行する。
普段はそんなゲームの調整役みたいな仕事をしている防衛省は、防衛省とは滅多に呼ばれず、もっぱらゲームマスターなんて呼ばれていた。
少し冷めたコーヒーを口に含み体にカフェイン補給する、そして改めて今回侵攻してきた敵艦隊の船体を観察する。
形は大きな蚕の繭みたいな形だ。後端が垂直になっており、そこにブースターらしきものが設置されているのが確認できる。
そのシンプルな造形を見る限りは、この宇宙船をつくった異星人は無駄な造形を好まない人種の様に思える。少なくともタケルにとってはこの船のシンプルなデザインは好印象であった。
しかしそのシンプルな造形の宇宙船に対して、上陸部隊の姿形は禍々しいの一言である。
地上車両や航空兵器はまるでクモやカニを巨大化させ、それに武器や推進器を取り付けたような造形だ。
サイボーグ歩兵はもっと酷い。特攻ミサイル神風君を見た時もあまりの酷さに頭を抱えたが、そのノリ、人間に機械の部品を取り付けるのではなく、機械の部品として人間を使っている、その様な印象を覚える。
タケルがこの未知なる敵にどのようにアプローチしようか思案している所、執務室の扉が開き、身長170cm程度、MOGファクトリー製の豊満な胸と尻をタイトなボディコンに詰めこんだ女性が入ってきた。
女性は冷め切ったコーヒーを片づけ、淹れたばかりのコーヒーをタケルの机に置く、そしてモニターに映っているサイボーグ兵の姿を見て思わず顔をしかめる。
「ねえタケル、それが今回侵攻してきたっていう異星人なの?」
「ああ、なんだエミか…そうだよ…」
「昨日からずっとこもりっぱなしだもんね…だいぶ疲れているんじゃない?大丈夫?おっぱい揉む?」
「うん、揉む…じゃなくてなんでここにいるのさ!?」
「なぜって私も今日から防衛省に勤める事になったから。」
そういってエミはタケルのインプラントに電子名刺を送信した。
「日本国 防衛省 参謀本部所属 参謀長付 お茶くみ係 エミ」
「なんなの?この役職は?」
「管理者にタケルが大変そうだからそばにいたいって相談したら、だったら防衛省に就職すればいいって言ってくれたから就職したの。」
『管理者!ちょっと!!』
『はい、どうかいたしましたか?』
『いくら僕が大変そうだからって、それだけの理由で妻を防衛省に就職させちゃっていいの?ましてや参謀長付きお茶くみ係なんて聞いたこともないよ!』
『今までのタケル様のライフログを分析するに、タケル様はエミ様のお世話を受ける事で、大幅にパフォーマンスが向上する事がわかっています。この有事を乗り切るためにも、この問題を担当するタケル様のパフォーマンスアップは重要な問題です。特におっぱいを揉まれる前と揉まれた後のパフォーマンスの違いは雲泥の差と言っていいでしょう。ですので、よりよい結果を出力するためにも遠慮なくエミ様のおっぱいを揉んでください。それでは失礼します。』
『待って!話はまだ…』
「…あんっ!タケルってなんだかんだ言っても私のおっぱい揉むよね。」
「いや…それはその…」
「参謀長~惑星青森への救助艦隊及び攻撃艦隊の編成案できたからもってきたよ~って、ひょっとして奥さんと仲良ししている所だった?お邪魔したようならごめんね?」
「いや、お邪魔じゃない!お邪魔じゃないから!!」
この恥ずかしい場面を見られたことを忘れるためにもタケルはユミコが提出した編成案に目を通すことに没頭するのであった。
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