第1話
1.
2555年4月1日(火) PM1:30 東北星系 惑星青森
青い空、小鳥のさえずり、程よい気温と湿度に、淹れたばかりのコーヒー、時折俺の頬を撫でるそよ風が心地いい。
「なんでこんな気持ちのいい日に戦争なんてやってるんだろうな?」
俺は金属製マグカップに入ったコーヒーを眺めつつゴチた。
俺、セイ以外にこの場にいるのは3人、俺の家族であるA級アンドロイドのコウメ、戦争仲間のヨウヘイ、ヨウヘイのA級アンドロイドのサキ、この4人が今回の拠点強襲作戦に参加するアルファ小隊の面々だ。
今はコウメのAF(アサルトフレーム)の電子戦機能を使用して、数時間前から指定の待機ポイント、ホンド技研所有の拠点から5kmの位置に潜伏している。
何もない原野だ、本来ならこんなところで潜伏するのは困難だが、コウメのAFが持つ対レーダー偽装天幕を使用する事で、上空からの監視に発見されることなく、やり過ごせている。
「そりゃあ暇だからだろ、それに俺達は常勤契約だ、プライベートを大事にしたいのなら非常勤に転向すればいいだろ?」
ヨウヘイが何をいまさらと言った感じで答える。
常勤契約とは戦争が行われている期間、毎週月曜から水曜までフルタイムで参加する契約だ。
非常勤は好きな時間に参加できる代わりに前線以外に配属される可能性が高くなる。
「やだよ、常勤じゃないと前線に優先配属されないのは知ってるだろ?予備戦力としての基地での後方待機任務なんてごめんだよ。」
インプラントから作戦開始まで15分との通知が視覚の端にポップする。
「よし、休憩は終わり、夕食は落とした拠点でバーベキューだ。」
俺達は各々の機体に乗り込み、予定通りならば14時ちょうどに敵拠点に降り注ぐ砲弾の雨を待つ。
作戦自体は至ってシンプル、味方の砲撃で敵が混乱している所に俺達で強襲、コアを破壊、そうする事で拠点の所有権が俺達の雇い主、トヨダグループへ移る。
これは戦争だ、しかしこの戦争に領土問題や資源問題、ましてや民族のイデオロギーや宗教なんてものは一切絡んでいない。
企業の方はこれらの拠点を奪う事で、いくらかの開発リソースを多めに使用できるようになるらしいが、正直な所、それも誤差の範囲だ。
この戦争の主目的は資源の消費と、人々への娯楽提供、そして遠い未来におきるかもしれない、異星人との戦争に備えての兵器開発だ。
今の俺の体はマリオネットと呼ばれている遠隔操作ユニットだ。本物の俺の体は関東星系、惑星日本の自宅にあるコフィンユニットの中にある。そこから量子通信モジュールを使用して、マリオネットに接続、接続されたマリオネットは本物の肉体と同じように動かせる。
つまりこの作戦が失敗して俺が戦死したとしても、ゲームの残機が1減ってしまったぐらいの認識でしかない。
人間とA級アンドロイドは本体での戦争参加は禁止されているため、みんなマリオネットだ。
自意識を持たないB級以下のアンドロイドは本体だが、それはマリオネットを準備するより、補充の新しいB級アンドロイドを送り込む方が安上がりだからだ。
更に付け加えておくとA級アンドロイドには人権があるがB級以下にはない。
ヒュルルルル…
風切り音が聞こえる、おそらく味方の砲撃だ。
更に数秒後、爆音と同時に敵拠点の砲台、防壁、格納庫から火の手があがる。
「予定通り、うまい砲撃だな。」
ヨウヘイは味方の砲撃を感心しながら眺めている。
「ああ、これで拠点の奪取に失敗したら、恥ずかしくて家に引きこもっちゃうね。」
防壁は予定通り破壊されその先にはコアが見える。
敵がこの砲撃から立ち直り、防御態勢が整う前に、あのコアを破壊すれば俺達の勝ちだ。
俺はローラーユニットを使用した高速移動で破壊された防壁を通り抜け、一直線にコアへ向かう。
砲撃を逃れた格納庫から出てきた敵のAFがそうはさせまいと俺の前に立ち塞がる。
相手はホンド技研の量産モデル、パイロットもおそらく非常勤だ、練度も性能もそこまで高くない。
右腕の2連20mmガトリングガン、左腕ハードポイントに搭載したENランチャー、そして両肩部に搭載した無誘導ロケット弾の一斉射を敵AFにおみまいしてやる。
至近距離からの一斉射に耐えられるはずもなく敵AFは何もできずに爆散する。
その残骸を乗り越え、その先にあるコアへ同じように一斉射をおみまいする。
俺の後ろについていたヨウヘイもコアの破壊に加わる。
ヨウヘイのAF、チェルシーはその重武装故に、速度は俺のAF、ピースメーカーMk2に劣るが、その火力は圧倒的だ。
敵の残りのAFはコウメの乗るAF、ジャミングバードと、サキが乗るAF、マーちゃんの制圧射撃によって格納庫から出られずにいる。
コアが破壊され、管理者のアナウンスが流れる。
「コアが破壊されました、ホンド技研の生存者はルールに従い、2時間以内に当エリアより撤収してください。またこれより24時間、当エリアは戦闘禁止区域となります。繰り返します…」
衛星軌道に待機していた輸送船が拠点に降り立ち、ホンド技研側の兵士やスタッフ、AFがそれに乗り込み、拠点から去っていく。
「簡単な仕事だったな。」
ヨウヘイは少しつまらなさそうな口調でつぶやく。
「勝ち戦なんてそんなもんさ。」
何の感慨も無しに、去っていく輸送船達を眺めながら俺がそう答えたその瞬間、輸送船から火の手があがりそのまま爆発四散した。
「あの爆発は何!?」
サキは目の前で起こった出来事が理解できずに困惑しているようだ。
「このエリアは現在戦闘禁止区域のはずです、このようなルール違反はペナルティを受けるだけでなんの利益にもならないはずですが…」
コウメも今起きた不可解な出来事に対して同様に困惑している。
「戦争に参加中の皆様にお伝えします、本惑星は現在、衛星軌道上に現れた不明勢力による軌道上爆撃を受けています。拠点外にいる皆様は至急、最寄りの拠点へ避難してください。これより惑星青森の全拠点は防衛体制に移行します。」
管理者のアナウンスが流れると同時に、コアのあったドーム状の構造物が上にせり出し、エネルギーシールドを展開した。そこへ敵の爆撃が直撃する。
エネルギーシールドはそれを防ぎきった。
どうやらこの拠点にいる限りはあの爆撃にやられる心配はなさそうだ。
先ほどの輸送船達が我先にと拠点へ戻ってくる。
軌道上からの爆撃は俺達のいる基地の周りをクレーターに変えていく。
本当の戦争が始まった。
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