こびとのくつ?

山広 悠

第1話

海外では真夜中に小人(こびと)が現れて靴屋のじいさんの仕事を手伝っているらしい。


なら、俺の夏休みの宿題も手伝ってもらおう。


明(あきら)はそう思いつくと、机の上に宿題のページを開いて、鉛筆と消しゴムも用意して眠りについた。


翌朝、当然のことながら、宿題は昨晩寝る前と全く同じ状態で机の上に放置されていた。


なぜだ。

なぜ俺のところには来ない。


明はもう一度童話を読み返してみた。


なるほど。

あのじいさんは死ぬほど貧乏だったから小人が助けに来たのか。


明はその日のうちに貯金を全部はたいてゲームを買い込んだ。


これでよし。

しっかり貧乏になったぞ。


昨晩同様、宿題を机の上にきっちりと準備すると、明は寝落ちするまでゲームを堪能した。


ところが、やはり小人は現れず、宿題も寝る前と全く同じ状態だった。


くそー。何がいけないんだ。


そうか。

いっぱいあってどれから手を付ければよいか分からなかったのか。


今度こそ。


やるべき箇所が小人たちにもはっきり分かるように、丸印や付箋をつけてあげた。


それでもダメだった。


ジュースやお菓子を置いてもダメ。


なすすべのないまま、夏休み最終日を迎えた。

宿題は一つも終わっていない。


きちんとやるべきことをやってもらわないと困るんだよね。


自分のことは棚に上げまくり、童話の出版社にクレームを入れようかとさえ思っていたその時、明は重大なことに気がついた。


まさか、小人たちは日本語が分からないんじゃないのか?

だって、もともと外国のお話だからな。


そうか。それは悪いことをした。

毎晩毎晩、宿題を覗き込んでは、悲しそうに首をかしげたり、ガックリ膝をついている小人たちを想像し、明は見えない彼らに心の底から謝った。


小人たちよ。ゴメン。


そして、早速、カメラをかざすだけで翻訳してくれるアプリをスマホにインストールして、いつでも使用できるようにしておいた。


これでよし。

気合も十分な明は、できれば小人の応援をしてあげたい気分だったが、邪魔をしても悪いと思い直し、少し早めに布団に入って目をつぶった。

日本語が分かるようになって、嬉々として働く小人たちの姿を思い浮かべながら。


翌朝。


なんと。宿題が全て終わっていた!


内容も完璧だ。

さすが小人。いい仕事をする。

これで堂々と学校に行けるぞ。


ありがとう小人たち!

助かったよ!


小人たちがどこにいるか分からないので、明はお礼を言いながら部屋の四隅に向かって深々とお辞儀をした。



そろそろ学校に行こうかと宿題の束を持ち上げた時、何かがヒラヒラと落ちてきた。

ノートの最後のページにでも挟まっていたのだろうか。


明はその紙を拾い上げ、驚愕した。


それは、小人派遣会社からの高額の請求書だった。


今の明にはとても払える額ではない。

しかもそこには「支払い不能時は強制的に小人になって働いてもらう」と記載されていた。

困ったな……。

親に頼んでも信じてもらえないだろうし。


でも、こんなの本当かな。

明は半信半疑で請求書を見つめていた。




数日後、明は学校に来なくなった。



                                  【了】

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こびとのくつ? 山広 悠 @hashiruhito96

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