第42話 本性
「ふう……どうやら間に合ったらしい」
俺は大聖堂内を埋め尽くす貴族たちを掻き分け、祭壇に向かってゆっくりと歩いていった。
俺の姿を見て、貴族たちが口々にざわめく。
実に心地よい。
「ジーク!本当にお前か!?」
エドゥワルドが信じられないものを見るような目で俺を見ている。
どうやら凄い心配を掛けたらしい。
「お兄ちゃん!無事だったのね!」
アリアスもほぼ同時に叫んだ。
その目には、涙が一杯に溜まっている。
いやあ、二人には悪いことをしたよ、本当に。
相当に心配を掛けたであろうことは想像に難くない。
でもその借りは、これから返していくとしよう。
「心配掛けたな!大丈夫、俺は生きているぜ!」
エドゥワルドがアリアスの手を取って喜び合う。
うん。実に良い風景だ。
俺はゆっくりと祭壇に向かう間に、大聖堂内の様子をつぶさに観察した。
いたいた。
俺を奈落の底に突き落とした張本人たち。
ダスティとその一味が、アホ面下げて俺を見てやがる。
まるで幽霊でも見ているような顔つきだな。
まあそれもそうか。
まさか俺一人であの最上級ダンジョンを脱出出来るなんて、誰も思わないからな。
でも脱出したんだよなあ。ざまあみろ。
俺は次いで首を巡らして反対側を見た。
いるいる。
俺を葬らんとした憎き黒幕が。
ベノン。
こいつも信じられないといった顔つきだな。
あ、ダスティたちを見た。
どういうことだと言わんばかりに目で詰問してやがる。
見られたダスティたちもわけがわからないって感じだな。
う~ん。実に良い景色だ。
悪漢たちが慌てふためく様っていうのは、実に小気味良いものだ。
祭壇の上では、ルビノが馬鹿面ぶら下げてるな。
ふん、お前なんかにテスター侯爵家を継がせるものかよ。
待っていろお前ら。
今、俺が決着付けてやるからな。
その時、壇上の一番上から威厳のある声が響き渡った。
「ジーク=テスターか!」
俺は歩きながら軽く頭を垂れ、名乗りを上げた。
「はい!陛下、恐れながらジーク=テスター、参上つかまつります!」
「うむ。大義である」
気のせいか、国王陛下も何やら嬉しそうだ。
陛下とはあんまり接点ないんだけどな。
俺の無事を喜びそうな感じは……ああ、そうか。
エドゥワルドの窮地がこれで救われると思ったからか。
へえ、意外に息子想いなんだな。
もっと冷徹な為政者のイメージだったのに。
俺がそんなこんなをあれこれ考えながら歩いていると、ついに祭壇のすぐ下までたどり着いた。
「お兄ちゃん!」
アリアスがたまらず俺の胸に飛び込んでくる。
俺はその震える身体をしっかりと抱き留めた。
「ごめんな、心配掛けて」
「ううん。もういいの。お兄ちゃんが無事ならそれでいい!」
「ジーク!よくぞ無事だったな!」
エドゥワルドも心底嬉しそうに俺に駆け寄ってきた。
「お前にも心配掛けたな、エドゥワルド」
「大したことじゃない。とにかく生きていてくれてよかったよ」
俺は力強くうなずいた。
エドゥワルドも同じようにうなずき返す。
「まずは陛下にご説明をしなければな。アリアス、いいかい?」
俺が声を掛けると、アリアスが涙を拭いながら離れた。
「うん。頑張って」
俺はうなずくと、またゆっくりと歩き出した。
そして祭壇の上に昇ってルビノの横に並び立つと、さらに一段高いところに座る国王陛下に向かって深く腰を折った。
「陛下。御前に失礼いたします」
「うむ。苦しゅうない。よくぞ最上級ダンジョンから生きて戻ったな」
「はい。おかげさまで、この通り元気に舞い戻ってまいりました」
「そうか。それでは事の顛末を聞かせてもらおうか」
「かしこまりました」
俺は恭しく言うと、首を巡らしてベノンを見た。
「ベノン子爵に謀殺されかけました」
貴族たちに波のようにざわめきが立つ。
「まことか?」
アスピリオス王が威厳を持って俺に問い掛けた。
俺は陛下に向き直り、真剣な表情でもって答えた。
「真実です。ベノン子爵は、この……」
俺はそう言いつつ、ダスティたちを指さした。
「この者たちを雇い、言葉巧みにわたしを誘ってダンジョン内に入り、そこでわたしを謀殺しようといたしました」
するとウィザードのメリーザが、妖艶さをかなぐり捨てて叫んだ。
「知らないよ!そんなことあたしたちはしてないわ!」
するとガーズも同調した。
「そうだ!俺たちはこんな奴知らねえ!会ったこともなければ、見たことすらもねえぞ!」
その瞬間、ガーズ以外のパーティーの連中がしまったという顔をした。
すると誰より先に、エドゥワルドが高らかに宣った。
「これは異な事を!お前たちは先程、ジークと共にダンジョン内に入ったことをしっかりと認めていたぞ。にも関わらず見たことも会ったこともないとは、これ如何に!」
ガーズの顔がみるみるうちに青ざめていく。
「……馬鹿が……」
パーティーリーダーのダスティが、吐き捨てるように小声でつぶやいた。
本性出してきたな。
俺はニヤリと微笑むと、国王陛下に向き直った。
「陛下。これ以上の説明は不要かと存じますが」
アスピリオス王は大きく深くうなずいた。
そしてベノン子爵に向かって顔を巡らし、厳しい声音でもって言ったのだった。
「ベノンよ、申し開きはあるか?」
だがベノンの目はまだ死んで居らず、爛々とした異様な輝きがあったのであった。
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