第34話 鞍替え
「冗談じゃねえ……」
ガーズはダスティたちが席を外した後も、ぶつくさと文句を垂れまくっていた。
ウィザードのメリーザも相当に不満が溜まっているらしく、ガーズに同調した。
「あたしも不満だよ。あんな額じゃね。納得出来るわけがないさ」
するとヒーラーのラロンも短い言葉ながらも同意した。
「お金少ない」
するとガーズがジョッキをテーブルに叩きつけた。
「そうともよ。いくらなんでも半分ってのはひでえ話だぜ!」
「なんとかならないのかい?」
メリーザが苛立ちながら言った。
ガーズが鼻でせせら笑った。
「リーダーがあんな弱腰じゃどうしようもないぜ」
するとメリーザもうなずいた。
「本当だねえ。まさかあんなにへっぴり腰だとはあたしも思わなかったよ」
「弱気」
ラロンは一言だけつぶやくと、目の前の木の実のつまみをひとつかみして口の中に放り込んだ。
ボリボリというラロンの噛みしだく音が響く。
「納得出来ねえ……」
ガーズが不満たっぷりに、カウンター席にいるダスティたちを睨みつけた。
するとその視線を感じたわけでもないだろうが、ダスティたちが席を立った。
そしてそのまま店外へと出て行ったのだった。
ガーズはその後ろ姿を不満げな顔で見送ると、再びジョッキをテーブルに叩きつけたのだった。
「ちっ!あの野郎、逃げやがったぜ」
「情けないねえ。ベノンに言い含められて、約束の半分の金で承諾して逃げ帰った挙げ句、あたしたちに突き上げられると、今度会ったら少しは引き出して見せるだってさ」
「お金欲しい」
「冗談じゃねえぜ、まったく……」
ガーズがジョッキを煽って一気に飲み干した。
するとその背に不気味に立つ者がいた。
メリーザは驚き、瞬時に身構えた。
ガーズもメリーザの反応を見て、一瞬で振り返り身構えた。
ラロンも同様である。
するとそのガーズの後背に立つ男が、右手をスッとかざした。
「失礼。脅かすつもりはなかった。無礼を許されたい」
メリーザは警戒を解かず、問い掛けた。
「あたしたちに何の用だい?」
「お誘いに上がりました」
「お誘いだって?」
メリーザが顔を歪めて問い返した。
男は悠然とした態度で、うなずいた。
「左様。失礼ですが、Aランクパーティーの皆様ですな?」
ガーズが鼻で笑うように応答した。
「おうよ。それがどうした?」
「ですが、どうやらパーティーリーダーにご不満があられるご様子。ならば鞍替えいたしませんか?」
メリーザはすぐにガーズと顔を見合わせ、次にラロンと目を見交わした。
「鞍替えねえ……そいつはどういう算段なんだい?」
「前衛ヴァンガードのガーズ殿、ウィザードのメリーザ殿にヒーラーのラロン殿という後衛お二人。我々にとっては正にうってつけの人材ですので」
「へえ、我々ってのは、あんたとその後ろのフードを被った奴のことかい?」
メリーザは、男の後背で目深にフードを被った男を指さして言ったのだった。
男は大いにうなずいた。
「ええ。その通りです。わたしは前衛、彼は中央が得意ですので」
「なるほどねえ、で、あたしたちの話を盗み聞きしていたってわけだ」
すると男が両手を前に出し、掌を相手に向けながら言った。
「これはこれは、手厳しい。我々が貴方方と話をしたいと思って側のテーブルに腰を下ろしたところ、聞こえてしまったまでのこと。運の良い偶然でした」
「偶然ねえ……。まあいいさ、そういうことにしといてやるよ。それで、あたしたちをあんたたちのパーティーにスカウトしたいってことでいいね?」
「左様です」
男が短く答えると、ガーズが不機嫌そうに両者の会話を遮った。
「ちょっと待て!こいつらの話をまともに聞くつもりじゃないだろうな、メリーザ」
メリーザは肩をすぼめた。
「話を聞くだけなら問題ないだろう?あたしたちは別段、仲良しこよしじゃないんだ。条件さえよければ乗り換えるに決まっているさ」
「その通り」
ラロンが短く同意した。
ガーズはまだ不満げであったが、ここは引き下がった。
男はその様子を見るや、すかさず懐に右手を伸ばした。
メリーザが少し緊張する。
男はその様子もしっかりと見て取り、スッと左手を挙げながら微笑んだ。
「ご心配なく。危害を加えようというのではありません。これを皆様にお見せいたしたく……」
そう言って男は、懐からしっかりとした麻の布地の袋を取り出した。
そしてそのままテーブルの上にゴトッと重そうな音を立てて置いたのだった。
その音を聞いて三人が一斉に背筋を伸ばした。
「中を見てもいいのかい?」
メリーザの問い掛けに、男はにこりと微笑んだ。
「無論、どうぞお確かめください」
男が言い終えるか否かというくらいのタイミングで、素早くラロンが手を伸ばした。
そして自らの手元に力強く引き寄せると、これまた素早い手慣れた手つきで袋の中身を開いたのだった。
「おおぉぉぉーーーーー!」
ラロンが目を爛々に輝かせて呻く。
ガーズも身体を乗り出してのぞき込む。
そしてメリーザも口角を異様に上げてニヤリと微笑んだ。
「こいつは……契約金ってことかい?」
男はすかさず軽く顎を引いた。
「その通り。どうぞお納めください」
メリーザはテーブルの上に置かれたものの照り返しでもって自らの顔を黄金色に輝かせながら、さも嬉しそうに答えたのだった。
「そうかい。それじゃあ、ありがたくいただくとしようかねえ」
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