第26話 地獄の責め苦
「……ぐ……」
俺はうめき声を上げながら目を覚ました。
痛い。
全身の痛みは和らいでいない。
ずっと、ずっと、延々と痛い。
痛すぎて何も出来ない。
顔を上げることも出来ないから、俺は床に突っ伏した姿勢のまま、締まりの無い口元からダラダラとだらしなくよだれを垂れ続けていた。
『だいぶ参っているようだな』
ニムバスがせせら笑うように言う。
だが俺にはこいつに反発する余裕など無かった。
虚ろな目でただ床を眺め、聞き流すことしか出来なかった。
あれから一体、俺は何回気絶をしたのだろう。
憶えていない。
それくらい数限りなく気を失った。
何度も気絶しては痛みで息を吹き返し、また気絶してを繰り返していた。
そして今、俺はまた意識を取り戻した。
だけど、どうせまたすぐ気絶するさ。
どうとでもしろ。好きにしろ。
どうせ俺に出来ることは、心の中でお前に悪態をつくことくらいなんだからな。
『返事も出来ないか。まあ当然だな』
ただ床だけを無感動に見つめていた俺は、少しだけ視線を動かしてみた。
ニムバスの声がことさら近いように思えたからだった。
そしてやはり、それは正しかった。
ほんのわずか逸らした視線の先に、半透明なニムバスの脚が映り込んでいた。
ニムバスめ……。よくもこれだけ痛めつけてくれたな……。
でも待てよ。あれ?でもなんか、さっきよりも薄くなってないか?
ほとんど今にも消えかかっているような……。
『おい、もう少しだけ辛抱しろよ』
ニムバスがやはりせせら笑うように言った。
次いで実際に、クククと笑い出した。
馬鹿にしやがって。
なんて腹の立つ奴だ。
だが、今はそれよりも重要なことがある。
奴は今、確かに言った。
もう少しだけ辛抱しろよと。
この言葉の意味は?
もしかして、もうすぐこの地獄が終わるのか?
もう少しで、奴のすべてが俺の中に入りきるというのか?
そうすればもう、この地獄の底で責め苦を味わい続けるような苦悶の時間が終わりを迎えるのか?
だがそれを問い掛けることは、俺には出来なかった。
口が上手く動かないからだ。
喉元も動かず、声が上手く発せられないからだ。
問いたい。ニムバスの野郎に、しっかりと問い掛けたい。
本当にこの地獄が終わるのかを。
ていうかさ、言えよ。
あと少しで終わるんなら、お前の方からそう言えよ。
どうなんだ?もう少しだけ辛抱しろっていうのは、そういうことなのか?
だが俺の心の問いは、奴には通じなかった。
その時、突然恐ろしいほどの激痛が俺の全身を駆け巡った。
うめき声も出やしない。
今までで一番の激痛だ。
あ……ああ……あ……。
ダメだ。意識が……遠のいていく……。
あ……ああ……あ……。
そうして俺はこの日何度目かの、いや、おそらく何十度目かの気絶を経験するのであった。
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