第23話 内的要因
「ええと……先を急ぐと言うと……今でも限界だと思うんだけど……実際限界超えてぶっ倒れては回復してもらって戦い続けてっていうのを延々と繰り返している訳なんだけど……」
俺はなんとかこれ以上の激しい特訓にならないように、抗弁した。
それというのも、これ以上激しくやれば死ぬんじゃないかと思うからだ。
実際ぶっ倒れる時は常に意識を失っているし、全身の打撲やらなんやらは死ぬ一歩手前の状態が常だ。
これ以上なんて無理だ。
俺は死んでは元も子もないと、エニグマに必死に抵抗しようとした。
だがエニグマはにべもなかった。
「いえ、ダラダラと続けても、ここから先は伸びませんので」
「いや、そんなこと言われても……伸びないってレベルがってこと?」
「レベル1000を越えますと、ほとんど伸びません。ですので今の時代でもレベル1000を越える者はいるかもしれませんが、おそらくそこが限界でしょう」
「そこから先はまったく伸びないの?」
「まったくではありませんが、これまで通りの訓練ではピタッと止まります」
俺は暗澹たる気持ちとなった。
「ということは、これまで以上の特訓が必要だってことか……」
するとエニグマが微かに首を傾げた。
「これまで以上と申しますか、正確には方法を変えると言った方が適切かと」
「訓練方法を変えるってこと?」
もしそれなら、別に厳しいものではないのかも。
俺の心に希望の光が灯った。
「ここから先は内的な要因が非常に重要となります」
「内的……精神修養をやるって感じ?」
するとエニグマがこくりとうなずいた。
「そうです。心の中で戦っていただきます」
うん?
俺は心の中で首を傾げた。
心の中で戦う?
それはどういう意味だ?
瞑想とかと違うのか?
いや実際に瞑想をやったことがあるわけじゃないけど、聞いた話だと心を落ち着かせるんじゃなかったっけ?
戦うってのとは、だいぶ違うよな?
「ええと……心の中で戦うっていうのは?」
エニグマはニコリと微笑んだ。
「そのものずばりですわ」
「いや、そう言われてもピンと来ないんだけど」
俺は困惑した。
だがエニグマはすでに方針は決していると言わんばかりに、決然と言い放ったのだった。
「それではニムバス様のところに戻りましょう」
エニグマはそう言うと、さっさと歩き始めた。
いや俺、同意してないんだけど……。
だがエニグマはとっとと神殿内に向かってスタスタと歩いている。
俺はエニグマの背を見送りながら、ある考えが頭をもたげた。
もしかして、俺ももうレベル1000だし、この外に出ても大丈夫なんじゃないか?
ここは最上級ダンジョンの地下千階。
ここへ来る前の俺なら、一歩外へ出た途端瞬殺されているだろうが、何せ今はレベル1000越えだ。
だったら外の魔物相手でも勝てるんじゃないのか?
だがそんな俺の不埒な考えを見透かしたように、エニグマが振り返りもせずに言ったのだった。
「まだ外に出たら死にますよ。外の魔物はレベル数千ありますので」
俺は軽く頬を引き攣らせると、無言でエニグマの後を追うのであった。
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