第22話 分割
「じゅ……十万……」
俺が口をあんぐりと大きく開けていると、エニグマがまたも冷静につぶやくように言った。
「ではそろそろ再開してもよろしいですか?」
俺は慌てて右手を上げて、エニグマを押しとどめた。
「いや、ちょっと待って!本当に十万なの?」
エニグマはゆっくりとうなずいた。
「はい。本当です」
「でもさ、ここを脱出するために俺のレベルをニムバスと見合うところまで引き上げるって言っていたよね?」
「はい」
「そのレベルは一万だって言ってたよね?」
「はい」
「数合わないじゃん」
するとエニグマが軽く眉尻を上げて言った。
「こちらのニムバス様は一万ほどですので」
うん?
こちらのニムバス?
じゃああちらのニムバスとか、そちらのニムバスが居るとでも?
「こちらのニムバスって何?」
俺の当然の疑問に、エニグマがゆっくりと口を開いた。
「ニムバス様は分割されて封印されているのです」
……さらっと凄いことを言うね。
ええと……分割だって?……五体バラバラにされて、封印されたとでも?
ああ、いや違うか。魂だけになっているって言ってたな。
俺は頭の中で必死に考えをまとめると、エニグマに向かった言ったのだった。
「つまり、魂を分割されて封印されているってことか?」
「さようです」
「ここには魂の十分の一だけ居ると」
「おっしゃる通りです」
はあ……なるほどね。
なら復活できたとして、本来の十分の一ってことか。
それにしたってレベル一万なんて常識外だけどな。
でも昔は一万越えは複数居たって……。
「なあ、昔と今ってだいぶレベル差があるみたいだけど……」
「はい。とても大きな差がございます」
「それは何でかわかる?」
エニグマは一拍間を置き、ゆっくりと口を開いた。
「それは、魔物が大人しくなったからではないでしょうか」
「魔物が大人しいの?本当に?」
俺が知る限り、今も魔物は至る所におり、人々の生活を脅かしていると思うが。
「だいぶ大人しいかと。昔はドラゴンなどはざらに居りましたので」
「まじ?ドラゴンがうようよしていたってこと?」
「はい。他にも貴方がこれまでに倒した様々な魔物たちも、昔はざらに居りました」
俺がエニグマの召還によって倒した魔物たちは、ほぼすべて伝説的な魔物たちだった。
それがざらに居た?本当かよ。
「なんでそんなに変わったんだ?」
するとエニグマがわずかに首を傾げた。
「さあ。それはわたしにはわかりません」
「そうなのか……」
だがそこで非常に重要な疑問が頭をもたげた。
「ていうか、エニグマって何歳?」
するとエニグマがスッと目を細め、俺を呪い殺すかのような恐ろしげな表情を浮かべて睨みつけた。
「女性に年齢を聞くものではありません」
……いや、そういう意味で聞いてないんだが。
だがエニグマは、いまだ俺を視線で殺すかのような目つきで見ている。
少し質問の角度を変えてみよう。俺も殺されたくはない。
「いや、その、ニムバスとは千年前一緒だったんだよね?」
「はい。さようです」
「で、封印されてからもずっとニムバスの世話をしているんだよね?」
「さようです」
よし。これで千歳以上だとわかった。
ならばこの件はこれ以上突っ込む必要は無い。
他の重要なことに質問をシフトさせよう。
「今俺のレベルは千を超えたわけだけど、ならニムバスを十分の一くらい取り込めるってことだよね?」
するとエニグマがニヤリと口角を上げた。
「取り込めると言いますか、すでにニムバス様は貴方の中に入られております」
「え?入っている?……ああ、確か最初の時に一万分の一が入ったな」
「いえ、常時ニムバス様が貴方の中に入ってきております。ですので貴方のレベルが飛躍的に上がっているのです」
俺は納得した。
エニグマが俺を回復し続け、戦い続けたとはいえ、いくらなんでもレベルが上がりすぎだと思っていた。
なるほど。少しずつニムバスが入り続けていたんだな。
「じゃあこの後、十倍の月日をかければレベル一万まで行けるってわけだ」
するとエニグマが悪魔的な笑みを浮かべた。
「いいえ。それでは時間が掛かりすぎます。そろそろ少し先を急ぐといたしましょう」
俺はそのエニグマの笑みに途轍もなく嫌な予感がし、全身がわなわなと震え出すのであった。
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