第19話 裂帛の気合い
俺はふらふらとする身体を引きずって、ゆっくりと前へ進んだ。
ドラゴンはまだ回復途中で動かない。
奴も必死なんだろう。
だけど、俺も必死だ。
お前を倒し、ドラゴンスレイヤーの称号を手に入れなければ。
ズル、ズル、と剣と左脚を引きずりながら、一歩一歩着実に前へ。
くそっ!左脚の回復が遅い。
痛みが取れない。
こんなんで攻撃できるのか?
そうだ!神聖魔法をかけて回復を……。
しまった。神聖魔法だけはないんだ。
ステータス画面では他の魔法はすべてMAXなのに、神聖魔法だけはその記載がなかった。
だがまてよ。
もしかしたらMAXではないだけで、少しは使えるのかも。
俺は慌ててステータス画面を開き、魔法検索をかけた。
「……回復……回復魔法は……神聖魔法の欄は……」
俺は必死に検索画面に目をこらすも、そこには神聖魔法も、回復系と思われる魔法も一切記載はなかった。
俺は首を巡らし、助けを求めた。
「エニグマ!俺には回復系の魔法はないのか?」
エニグマの声が冷徹に響く。
「ございません」
くっ!俺を絶望にたたき込む一言だぜ。
こうなったら自己回復能力に賭けるしかない。
時間さえ経てば徐々に回復するはずだ。
だが……。
キエェェェェェェーーーーーー!
突如響き渡るドラゴンの甲高い咆哮。
二十メートルほど先で、ドラゴンが首をもたげてぐるっと巡らし俺を見た。
どうやらあちらさんは回復を終えたらしい。
ゆっくりと四肢を伸ばして立ち上がろうとしているようだ。
ふう……。
やるしかないか。
心なしか左脚の痛みが少しだけ和らいだ気がする。
自己回復能力が作動しているんだろう。
俺はステータス画面をのぞき込み、HPを確認した。
HP/176だ。
さっき見た時は163だったはず。
ちょっとの間で13回復か。
これならいけるか?
いや、いくしかない。
俺は大きく胸を反らして出来る限りの空気を吸い込むと、勢いよくそれを吐き出した。
そして剣を握る手に力を込めて振り上げると、裂帛の気合いを込めて走り出した。
「うおぉぉぉぉーーーーー!!!」
一気に間合いを詰める俺。
だがそうはさせまいと、ドラゴンがその大きく裂けた口を開けた。
炎が来る!
俺は痛みも忘れ、素早い動きで右へと飛んだ。
ついさっきまで俺がいた地面をドラゴンの炎がしこたま焼き付ける。
俺は着地するや、すぐさま両脚に力を込めて前方に向かって走り出した。
何処を狙うか。
先程斬り付けた脚はダメだ。
太すぎて一刀の元では切り落とせない。
やるなら一撃で決着を付けられる箇所だ。
俺はさらなる気合いを入れると、右脚にすべての力を込めて地面を強く蹴った。
「うおりゃぁぁぁぁーーーーーー!!!」
狙うは首だ!
破砕氷槍で切れかかった首だ。
回復しつつあるとはいえ、まだ深い傷がハッキリと見える。
そこを目掛けて、一撃で切り落としてやる!
俺は振り上げた剣を全体重を掛けて、力一杯に振り落ろした。
ザボッ!
鋭い剣先がドラゴンの首元に食い込む。
「行っけえぇぇぇーーーーー!!!」
俺は全身で身体をねじるようにして、剣を振り切った。
バツンッ!!
一杯に伸ばした太いゴムが、耐えきれずにはち切れるような音が響く。
だが俺は身体を精一杯によじったため、空中で回転してしまい、視界が定まっていない。
斬れたのか?
どうなんだ?
ドン!
ドラゴンの首が斬れたのかどうかを確認する前に俺の身体は落下し、激しく地面に激突した。
俺は無様にも背中から落ちてしまい、息が出来ない。
それに背中を激しく打ち付けた後とはいえ、後頭部も強打してしまった。
痛み的にはそちらの方が痛い。
俺は必死に呼吸を整えつつ、右手で後頭部を触ってみた。
その瞬間、背筋が凍るほどゾッとした。
後頭部がべったりと濡れている。
なんてことだ。おびただしい血の量だ。
もしかすると後頭部が割れたんじゃないか。
マズい……このままでは死ぬ。
俺は近い将来なると思われる絶望的な未来予想図にくらくらとしながら、気を失いかけた。
そういえば、ドラゴンはどうなった?
首は切り落とせたのか?
あ、ダメだ。意識が遠のく。
あ……あ…………あ…………。
そうして俺は、情けなくも戦いの最中に意識を失ってしまったのだった。
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