第15話 悪魔王の分身

「な、なんだこれはーーーー!?」


 俺はステータス画面に映る文字列を見て、ひっくり返りそうになるくらい驚いた。


 レベル45だって!?


 そんな馬鹿な。俺のレベルは8だったはず。


 それにHP以下の数字も、とんでもないぞ。


 桁が一つ違うじゃないか。


 だけどそれ以上に驚いたのが特殊能力だ。


 毒無効に暗闇無効、麻痺無効に沈黙無効って……あらゆる状態異常に対して無効となるのか?


 それよりHPとMPの自己回復って何だ?


 使っても勝手に回復するってことか?


 そんなの聞いたことないぞ。


 それにあらゆる魔法がMAX状態じゃないか!


 あ、神聖魔法だけはないのか。


 いや、そんなことどうでもいい。


 それ以上にとんでもないことがその下に書かれているじゃないか!



 称号:悪魔王の分身



 なんじゃそりゃあーーーーーーーーー!!!


 まずい!まずいまずいまずい!絶対にまずい!


 悪魔王の分身!?奴の一万分の一が入っているから分身ってわけか。


 てことはあいつは、悪魔王ってことじゃないか!


 ていうか悪魔王って何だよ!


 どんだけやばいんだよ!


 なんてこったーーーーーー!


 前言撤回。


 世界がどうなろうと俺の命の方が大事だってさっき言ったけど、あれ撤回する。


 いくらなんでも悪魔王なんてものを復活させるわけに行くか。


 そんなことしたら妹もエドゥワルドもみんな殺されちまうじゃないか。


 ダメだ。だったらダメだ。


 本当に世界が滅びるようなことは絶対ダメだ。


 そもそもさっきの世界がどうなろうとっていうのは、つい勢いで言っちゃっただけだ。


 本当はそんなこと思っちゃいない。


 その場の雰囲気でついそう思っちゃっただけだ。


 本心じゃない。


 だからダメだ。


 悪魔王なんて復活させて言い訳がない!


 俺がこれだけの長広舌を心の中で必死で考えていると、エニグマがそれを見透かしたように言った。


「ご安心を。悪魔王という称号は、あくまで恐るべき力を持つという意味でございます。実際に悪魔を統べる王などという意味ではございませんのでご心配なく」


 エニグマはそう言うと、軽く腰を折ってお辞儀をした。


 本当だろうか?


 でも確かに、エドゥワルドも至高の王というクラスだが、別段今は王でもなんでもない。もちろん王子ではあるが、決して王位に就いたわけではない。


 いや、それはクラスの方か。称号の方じゃない。


 それにしてもクラスに関してはやっぱり空白なんだな……い、いや今はそんなことはどうでもいい。


 問題は称号の方だ。


 あいつら、俺を陥れたパーティーの連中はドラゴンスレイヤーの称号を持っていた。


 そして実際にあいつらがドラゴンを倒しているのは間違いない。


 だからこそのドラゴンスレイヤー。


 つまり言葉通りってことだ。

 

 じゃあ悪魔王というのもそうなんじゃないのか?


 くそっ!わからない。


 俺は今まで称号については深く考えたことがなかった。


 テスター家を継ぐためにまず第一に重要なのはクラスだった。


 そのためクラスにばかり注意を向けてきた。


 だから称号については注視していなかったばかりに、よくわからない。


 エニグマの言葉が真実なのか、それとも偽りなのか判断がつかない。


 それを、またも見透かしたようにエニグマが言う。


「どうぞご安心を。称号とはあくまで通り名の様なもの。大した意味はございません」


 エニグマは落ち着いた声音で、さも当然のように言った。


 俺よりも年端もいかないように見えるエニグマが、落ち着き払っている。


 嘘を言っているようには見えないが……。


 見た目と実年齢は違うのかもしれない。


 だとしたら、この落ち着きも紛い物なんじゃないか?


 ダメだ。こう考えてくると、何もかもが嘘偽りのように思えてくる。


 何が真実で、何が偽りなのか。


 もう俺には何もわからなくなっていたのだった。

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