完結済『悪魔のなれの果て』 英雄の子孫だったはずがクラス無しと判定され、 失意の果てにダンジョンで出会った悪魔に魅入られてしまい、能力を分け与えられてしまったので、無双します。
マツヤマユタカ
第1話 クラス判定
「ジーク、いよいよ今日、お前は晴れてテスター侯爵となるわけだな」
親友のエドゥワルドが、大聖堂へと向かう道すがら、傍らの俺に語りかけた。
「いいクラス判定が出ればな。だがもしもそうでなければ、どうなるか……」
俺の名はジーク=テスター。
テスター侯爵家の、一応跡取り息子だ。
一応と言ったのは今日執り行われるクラス判定儀式の結果次第で、テスター侯爵家を継ぐことができるかどうかが決まるためだった。
テスター侯爵家は千年前に活躍した大英雄を始祖とし、その後も何人もの英雄を輩出した武門の家柄だ。
だが五年前の大災において俺の父アーロン=テスター侯爵は、賢者であった母と共に圧倒的な数で襲いかかる魔物と勇猛果敢に戦うも、残念ながら二人ともに命を落としていたのだった。
だが父も母も、その働きぶりから国王によって死後英雄の称号を得た。
そのため、本来ならばすぐさま後継者に爵位を継がせなければいけないところを、特例として爵位を一旦空位とすることを許されていた。
それというのも当時の俺はまだ十歳であり、十五歳の誕生日に執り行われるクラス判定儀式を済ませていなかったからだった。
我が国においてはクラス判定儀式を執り行っていない者は、一人前とは認められない。
それ故、その時の俺には侯爵家を継ぐ資格はなかった。
そのための特例措置が五年間のテスター侯爵位の空位であり、今日が正にそのクラス判定儀式の当日であった。
「大丈夫さ、ジークなら。きっとお前の父上と同じ剣聖のクラス判定が下されるさ」
「何を根拠に言っているんだか。俺は不安で不安でしょうがないっていうのに」
「大丈夫だって。俺だって父と同じハイ・キングの称号が出たわけだし」
俺と今、肩を並べて歩くこの親友のエドゥワルドは、実のところ我が国の第三王子だ。
俺とは幼馴染みで、学校でもずっと同じ学級で学んだ本当の親友だ。
そのエドゥワルドは先月、俺より先に十五歳となったことでクラス判定儀式を執り行い、そこで父王と同じハイ・キングの判定が出ていたのだった。
「お前がそうだったからといって、俺がそうなるって決まったわけじゃないだろう?」
「それはそうだが、確率は高いんじゃないか?クラス判定は遺伝することが多いらしいし」
「確かにそう聞くが……」
これは事実だ。
クラス判定は多くの場合、運動神経などと同じく遺伝することが多いらしい。
だが遺伝しないこともある。
実際、第三王子のエドゥワルドは父王と同じハイ・キングの判定を得たが、第一王子も第二王子もハイ・キングどころかキングですらなかったらしい。
「大丈夫。きっと上級職のクラス判定がなされるさ。お前の強さはこの俺が一番良く知っているんだからな」
エドゥワルドが朗らかに笑いながら俺を励ます。
だがすぐに余計な一言を言ってきた。
「もっとも、魔法に関しては俺の方が格段に上だがな」
俺はキュッと眉根を寄せた。
「ふん、わかっているさ。魔法でお前に勝った記憶はほとんどないからな」
だがそこで俺も一言多めに言ってやった。
「だが剣術でお前に後れを取った記憶はま~ったくないね」
するとエドゥワルドが肩をすぼめた。
「わざわざそれを言うなよ。まあそう言う俺も、さっき余計な一言を言ったばかりなんだけどな」
そう言ってエドゥワルドが高らかに笑った。
俺も一緒に笑った。
何だかんだ言っても俺はその時、正直大丈夫だろうと高をくくっていた。
だが実際は、そうはならなかった。
俺たちが肩を並べて笑いながら向かう大聖堂では、俺にとって人生最悪となる結果が待ち受けていたのであった。
「お兄ちゃん!」
大聖堂の方角から、可憐な少女が俺たちに向かって駆けてくる。
妹のアリアスだ。
アリアスは少し怒り気味に俺たちの前で立ち止まると、頬を膨らませて抗議の声を上げたのだった。
「もう!何処へ行っていたの?心配したんだから」
「ごめんごめん。ちょっとエドゥワルドと話しをしていたんだ」
俺は少しの間姿をくらましていたことを素直に謝った。
すると傍らのエドゥワルドも、口添えをしてくれた。
「悪いねアリアス。ちょっと話すことがあったものだから」
するとアリアスが頬を膨らませながらも、仕方ないとばかりに許してくれた。
「わかったわ。でももう皆さんお集まりよ。急がないと」
「そうだな。少し急ぐとしよう」
俺はエドゥワルドと顔を見合わせうなずきあった。
そして俺たちは、クラス判定儀式が執り行われる大聖堂の中へと、急いで駆け込んでいったのであった。
「遅い!何をしていた!」
叔父のベノン子爵が、大聖堂内に入るなり俺に向かって怒鳴りつけてきた。
「……どうもすみませんね。でも時間には間に合いましたよ」
俺はそう言うと、アゴを突き上げて大聖堂の中にある大時計を指し示した。
大時計の針は、まだ正午を指していない。
クラス判定儀式が執り行われる予定の時刻は正午であり、俺たちは遅刻をしていたわけではなかったからだ。
するとベノン子爵の傍らに立つ、いとこのルビノが嫌みったらしく口の端を上げて、吐き捨てるように言った。
「ふん!ああ言えばこう言う、一体誰に似たんだか」
「少なくとも貴方たち親子ではないね。俺は貴方たちのようにぐっちゃぐっちゃにひねくれてたりはしないからな」
俺ははっきりと言ってやった。
これまでのやり取りでわかるとおり、俺はこの叔父親子が大っ嫌いであった。
そしてそれは相手も同じだろう。
俺たちは互いに近距離で睨み合った。
すると親友のエドゥワルドがやれやれといった様子で間に割って入った。
「ジーク、そろそろ儀式の時間だ。行こう」
俺はうなずいた。
それというのも、このくだらない親子にいつまでも付き合ってやる義務はないと思ったからだった。
「そうだな。行こう」
俺が踵を返して大聖堂中央の祭壇に向かおうとする背に向かって、いとこのルビノが嫌みったらしい言葉を投げかけてきた。
「さてさて、どんなクラス判定が行われるのやら。ちなみに僕はダークナイトのクラス判定だったがね」
俺は振り向きもせずに応じた。
「そんなに威張れたクラスじゃないだろうに」
ダークナイトは確かに上級職ではあるが、闇属性のクラスである。
その特殊能力も暗殺系のものが多く、一般的にあまり好まれるクラスではなかった。
だがルビノはそれを、別段後ろ暗くは思っていないらしかった。
「何だと!?立派な上級職だぞ!」
すると傍らのエドゥワルドが、俺と同じように振り向きもせずに言い放った。
「だからなんだ。俺は最上位クラスのハイ・キングだぜ」
するとルビノが黙りこくった。
見てないからわからないが、おそらく憤怒の表情で歯ぎしりしているに違いない。
だが今はそんなルビノのことなどどうでもいい。
俺はエドゥワルドと妹のアリアスと共に、祭壇へと到着したのだった。
そこでは高位の神官が俺を待ち受けていた。
「ジーク=テスター殿かな?」
「はい」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
俺は神官に導かれて階段を上り、祭壇の中央部へと進んだ。
丁度その時、大時計が正午の鐘を鳴らした。
ゴーン……ゴーン……
厳かな音色が大聖堂を包み込む。
ステンドグラスから射し込む光が、さらに荘厳な雰囲気を演出しているようだ。
「時間となりました。準備はよろしいかな?」
俺は心を落ち着かせてうなずいた。
「はい」
「それでは始めます」
神官は目を瞑って両腕を上げ、俺に対して掌を向けた。
そしてなにやら小声でブツブツと念じだした。
クラス判定の呪文を唱えているのだろう。
俺にはよく聞き取れなかったが、それは我が国で使う言葉じゃなかった。
俺は深く深呼吸をし、判定の刻を待った。
すると、突如として神官の目がカッと大きく見開かれた。
そして厳かな雰囲気の中、神官が俺に向かって告げたのであった。
「終わりました。これにより、貴方は『ステータス』を使えるようになったはず。ご確認ください」
『ステータス』とは、文字通り自分のステータスを表示することの出来る能力であり、クラス判定儀式を執り行えば誰でも使えるようになるものであった。
俺は心を落ち着かせるため、一度大きく深呼吸をした。
さて、どんなクラス判定が出るのやら。
出来れば父と同じ剣聖か、さもなくば母と同じ賢者が良いが……。
俺は気持を落ち着かせると、静かな声で言ったのだった。
「ステータス」
そう唱えた瞬間、俺の目の前に半透明なガラス板のようなものが、ふっと浮かび上がった。
そこには、いくつかの文字列が書き込まれていた。
そしてこの文字列こそが、俺を奈落の底へと突き落とすものなのだった。
――――――――――
ジーク=テスター
レベル: 8
H P:21
ちから:23
すばやさ:28
まもり:18
かしこさ:14
M P:10
クラス:
特殊能力:
称号:
――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます