なきごえ

紗久間 馨

ないているのは誰?

「ぎゃあああ」

 真夜中、外から幼い子どもの泣き声が聞こえてくる。その正体を確かめようと窓に近づこうとするが、怖くて動けない。今いるのは二階だから、窓を開けて下を覗くことになる。そう考えると余計に怖い。


 この日、小学四年生のミオは夜遅くまで起きていた。もうすぐ夏休みが終わろうとしているのに、宿題が片付いていないのだ。

 ミオが住むのは緑が多く広がる郊外の家。父親が家を購入し、街の中心部から春に引っ越してきた。この土地で過ごす初めての夏。

 窓を開けていると虫の鳴き声が聞こえ、それはとても美しく、ミオにとって癒しの音となっている。宿題に追われていなければ、の話だが。


 そこに聞こえてきたのが泣き声だった。赤ん坊かもう少し大きな子の声のようだ。

 なぜ家の外で夜中に泣いているのか。誰かが子どもを置いていったのだろうか。本当に人の子どもだろうか。幽霊だったらどうしよう。

 ミオは恐怖のあまり布団に包まって耳を塞いだ。それでもその声は聞こえてくる。


「ぎゃあああ」

 全く泣きやむ気配がない。両親に助けを求めたいが、布団から出ることすらできないほどに怯えてしまっていた。




「ぎゃあああ」

 どのくらい時間が経ったかわからない。もう終わってほしいと強く願った。


「うるさいっ!」

 両親の寝室の方から父親の怒鳴り声がした。


「うにゃっ」

「にゃああん」

 猫の鳴き声と草の中を走っていく音が聞こえた。すると、泣き声が止んだ。

 ミオが子どもの泣き声だと思っていたのは、猫の発情期の鳴き声だったのだ。でも、ミオはそれを知らない。


「もしかして、猫ちゃんの鳴き声?」

 ミオは安心して布団から出た。

「あー、良かった」

 緊張状態から解放され、思いっきり背伸びをする。その視線の先には勉強机と広げたままの宿題。

「全然良くなかったー」

 ミオは肩を落とした。

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なきごえ 紗久間 馨 @sakuma_kaoru

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