白くて丸くて朗らかで
おくとりょう
お腹が空いて、
目が覚めた。光が眩しい。
……あぁ。電気を消さずに寝ちゃったのか。
電気代のことを思って、うんざりした。
ゆっくり身体を起こすと、頭が妙に冴えていて、部屋の丸い室内灯が白く乾いたような気がした。まるで他人行儀になったように。
いつもと同じ明かりなのに。
……あぁ。きっと似ているせいだ。彼女はこんなに無機質じゃないのに。そのはずなのに。
ジジっと音が聴こえた気がした。蛍光灯じゃないのに。
無機質な部屋に低い耳鳴りが短く響く。
つい僕は閉めきった雨戸の先、外のことを考えた。真っ暗で真っ黒な夜空のことを。白くて丸くて明るい月を。
……そんなこと、これっぽっちも考えたくないのに。
「あの子、付き合ったんだって」
人づてに聞いた、仲良しな彼女の恋愛事情。
そんなの聞かなきゃよかったのに。……今日もあの子は明るく笑ってたから。
いつも明るい優しい彼女。楽しいときには静かに寄り添い、悲しいときには優しく照らす。いつも明るく朗らかで、だけどどこかに影もあり……。
ずっとそうだと思ってた。
だけど、帰りに見た彼女は僕の知らない顔をしていて、知らない声で笑っていた。夏の陽射しが彼女の側だけ照らしてるみたいで……。
僕はそっと目をそらして、見えないふりして通り過ぎた。鼻の頭が冷たかった。コートを着ていてよかったと思う。
……あぁ。昼間のことを思い出しているうちに、僕のお腹がきゅーっと鳴った。
ほとんど空の冷蔵庫に残っていた牛乳を電子レンジで温める。
扉に映る腫れた目をした僕。その中で鈍く照されながら、ゆっくり回るマグカップをじっと見つめていた。
ずーっと続く長い耳鳴り。その後に。
「チーン」となって、明かりは消えた。
白くて丸くて朗らかで おくとりょう @n8osoeuta
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