第281話 サンキューママン。

 どんどん竜皇軍は神聖帝国の内部へと攻め込んでいき、重税で苦しんでいる神聖帝国の村の人々を解放していく。

 無論、そうなれば兵站がどんどんどうしようもなくなっていくという神聖帝国の策略……ではあったのだが、その策略は見事に崩されていた。


「よーし、どんどん運び込めー!この麦で麦粥を作るんだー!」


「調理班は調理を開始してください!!胃腸にやさしい麦粥で構いません!

 とにかく大量に作り上げてください!!」


「一気に食べさせるなよ!飢えている所に一気に食べさせると死んでしまうぞ!

 ゆっくりと食べさせるんだ!」


 竜都からワイバーンを使用して空輸のピストン輸送で運び込まれてくる麦。

 それをアリアの妹は他の調理人と協力してたちまち大量の麦粥を作り、飢えた人々の供給していく。

 慢性的な栄養障害がある状態に対して、急激に栄養補給を行うと「リフィーディング症候群」と呼ばれる障害が発生する。

 そして、それによって飢えの状態からせっかく栄養を補給したのに死亡に至るケースも多々あるのだ。

 これを防ぐには、消化の良い体に負担がかからない粥などをゆっくりと食べさせていく他方法はない。

 普段はアーテルの食事を作っているアリアの妹も必死になって大量の麦粥を作成している。兵站の炊事係たちもとにかく大量の粥を作って村人たちに供給していく。


「全く、あんな奴らに貴重な食糧を供給することなどなかろう。全て見捨ててしまえばいいのじゃ。これが敵の策略であることぐらい妾でもわかるぞ。」


 そんな感涙の涙を流しながら麦粥を食べるボロボロの農民たちを見て、人間体型のアーテルは忌々しげに吐き捨てる。

 確かにそれは正しい選択ではあるが、リュフトヒェンには彼らに対してちょっとした気の弾ける部分がある。

 彼は、神聖帝国のみ地脈の力を絞って、農作物の育ちを悪くするようにしてしまったため、こうなった責任の一端は彼にもある。

 無論、正しく飢餓に苦しむ人に国が対策を行っていればここまでひどくなることはない。主に神聖帝国が当然ではあるが、そういったこともあって、神聖帝国の農民たちにも配給を行うことにしたのである。


「まあ、この程度の人数なら何という事はありませんよ。この手段で私をどうこうしたいのなら、大陸規模の人数を持ってきなさいという感じです。その場合面倒臭いからさっさと逃げますが。」


ダブルピースをしながら、ママン……ティフォーネは飄々とそう答える。

大陸規模の人間を養うのに、魔力が大変などという理由ではなく面倒臭いという理由なのが、彼女の膨大な魔力容量と性格を表している。


「兵站という概念が壊れるのぅ。このクソ女、性格は最悪だけど実力はあるから厄介じゃよなぁ……。」


アーテルはそんな彼女に対して苦々しげに吐き捨てた。




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