第238話 軍事クーデターの企み
「どういうことだこれは!!」
魔導帝国の軍部の貴族の一人は忌々しげに机に乱暴に拳を叩きつけた。
貴重な竜機をこれほど使用し、しかも戦闘前に墜落する危険を冒す山脈越えすら行い、敵国の首都へと奇襲をかけた今回の作戦。
少なくとも、首都に奇襲をかけることによって爆撃を行い、打撃を与える予定が竜都の天蓋結界によって全て防がれてしまう形になった。
この世界では竜以外にも空からの攻撃を行う勢力は存在するので、大都市ならば上空に結界を展開できる魔術式を組んでいることは珍しくない。
だが、まさか劣化とはいえ、竜語魔術による爆撃を防御する結界が展開できるとは思ってもみなかったのである。
「貴重な竜機がこれほど破壊されるなど……これでは穏健派どもが抑えきれないではないか!!」
「ええい!この作戦がうまくいけば竜皇国にも打撃を与えられ、穏健派もその功績で黙らせられる一石二鳥の作戦だったのに!!」
もちろん、この程度で竜皇国がどうこうなるとは彼らも思ってはいない。
だが、辺境拍の方に目を取られ、首都に奇襲がかけられて大打撃を受けたのなら、あの国は混乱に陥るはずだったのだ。
そして、その功績を盾に穏健派の勢力を削っていくはずだったのだが、それは全くの逆効果に終わってしまった。
「軍部など恐れるに足らない。」「あれだけの竜機を展開して全滅とか無能なのでは?」という考えが穏健派だけでなく、一般市民にも広く知れ渡ってしまうことになるだろう。
軍事政権とは言わなくとも、帝国の領土を広げるために多額の税金を市民から搾り取って、横暴を行っている軍部は、一般市民から非常に嫌われる対象だった。
(そのために、穏健派の勢力が非常に伸びているとも言えるが)
「ううむ、このままでは穏健派の勢いが増しすぎて我らが排斥されかねませんぞ。」
「……仕方あるまい。軍事を握っているのは我々よ。軍事クーデターを決行し、この帝国を支配する。帝国を維持するためには、我々の軍事力が必要なのだ。平民どもにこの国を任せたら、この帝国は粉微塵に分裂してしまうだろう。
それだけは避けねばならん。」
この帝国は竜機と軍部の強大な軍事力により帝国の形となっている。
もしそれが失われたら、帝国は分裂しそれぞれ小さな国に独立分裂してしまうだろう。そうなっては、他の国から各個撃破されてしまうかもしれない。
帝国を失うわけにはいかない、という彼らも自分自身の独自の愛国心によって成り立っているのである。
「国がなくても生きられる、というのは選ばれた強者だけだ。
一般市民の弱者たちは寄る辺である国がなければ難民として苛烈で差別される生活を強いられてしまう。我々は、何としてもこの国を守護していかなければならんのだ。」
その言葉に、その場にいる皆は一斉にうなづいた。
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