第214話 策略2
そのしばらく後、リュフトヒェンは自分の鱗を通して、竜都にいるシャルロッテに通信を取っていた。
シャルロッテは旧帝国の頃から国政に携わってきた中立派の重鎮である。
それならば、当然魔導帝国との繋がりもあるに違いない、という判断である。
自室でリュフトヒェンの話を鱗を通して聴いた彼女は、椅子の背もたれに体を預けて言葉を放つ。
「……。で、アタシの方に案件が回ってきたってわけ?まあ、確かに魔導帝国には繋がりがあるからやるけど……。
というか、以前の帝国と魔導帝国はお互い仲めっちゃ悪かったし。
その盾になる辺境伯をむやみにどうこうできなかったのは、そういう理由もあるわ。」
確かに、亜人嫌いの旧帝国ならば、即座に竜人である辺境伯のルクレツィアなど引き落とされてもいいはずだ。
それが最後の最後まで中々追い落とされなかったのは、やはり大辺境からの侵略と魔導帝国からの侵攻を恐れていたからだろう。
もし辺境伯を追い落とすのが本気で実行されていたら、あの領地が魔導帝国の狩り場になって荒らされていた可能性もある。
そう考えると、ギリギリだったんだなぁ、と通信先のリュフトヒェンは考え込む。
「あいつらがこちらに竜機で攻め込んでこなかったのは、クラウ・ソラスがあったからね。いかに竜機といえど、超遠距離攻撃可能なクラウ・ソラスには勝てっこないわ。……まあ、もう使い物にならないけどね。」
いかに竜と同様に超音速で飛行できる空中戦用竜機といえど、クラウ・ソラスの高出力・超遠距離攻撃可能な魔力レーザーの前には対抗できない。
魔導帝国が今まで攻め込んでこなかったのは、辺境伯とクラウ・ソラスという二重の防衛があったからである。
しかし、今やクラウ・ソラスが失われてそれなりの時間が立つ。
いつ襲い掛かってきてもおかしくなかったのだが、逆になぜ今まで侵攻してこなかったかが気になるシャルロッテは、赤毛の髪をかき上げて、頬に指を当てて考えこむ。
「しかし、クラウ・ソラスがなくなった瞬間とか、国内が混乱してくる時に攻め込んでくるものかと思ってたけど……この比較的落ち着いてきた時に威力偵察を行ってくるなんて何かあったのかしら?それだけ軍部が追い込まれているとか……?」
「ともあれ、食糧が必要なんだからバンバン生産しなさい。大釜の燃料である竜族の魔力はアンタの魔力なんだから。キリキリ魔力を注ぎ込みなさい。」
大窯にはリュフトヒェンの鱗が張り付けられており、これによって遠隔からでも彼の魔力が注ぎ込れるようになっている。
だが、四六時中麦を産み出している訳ではない。必要以上の多量の麦を作ってしまうと、麦の価格が極端に下がってしまい、農家たちの生活がたち行かなくなってしまう。それでは本末転倒である。
そのため、あくまで大釜はいざという時の予備手段となっている。
シャルロッテとの相談して、相場の状況や周囲の農地の様子などを見て判断するのだが、リュフトヒェンが地脈の流れを制御して的確に農地に地脈の力を注ぎ込むことによって最近は豊作になるようになってきており、最近は大釜はそんなには起動していなかったのだ。
だが、この状況になれば、大量の食糧を魔導帝国の穏健派に送らなくてはならない、つまり一国を食わせなくてはならないのでそんなことを言っていられなくなる。
その分我がめっちゃ疲れるんだけどなぁ、と通信先のリュフトヒェンはため息をついた。
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