第200話 切れるエルフ

「いきなり森に対して何してるんですか貴女は!」


 あのゴブリンたちの巣穴の空爆の後、顔色を変えて真っ先にハイエルフのリュートが、アーテル領にすっ飛んできて、洞窟内部でのんびりしていたアーテルに怒鳴りつける。

 いきなり訳のわからない事で怒られたアーテルは、きょとんとした顔をしたまま、何のアポもなく急に表れたリュートの顔を見返す。


「いや何って……空爆しただけじゃが……?ゴブリンを牽制するために空爆して何が悪いんじゃ?」


 そんなアーテルに対して、リュートは自分の長い耳をピン!と立てながら怒鳴り散らす。どうやら、相当彼女は怒り狂っているらしい。

 とりあえず、アーテルは彼女の発言に耳を傾けることにする。


「悪いに決まってるでしょう!何でたかが牽制で森を痛めつける必要があるんですか!いえそれはまだ許容できますが……毒の空気って何ですか毒って!

 あんなの大々的に使うんならこちらにも考えがありますよ!!」


 そう、リュートが怒り狂っていたのは、森を爆撃した事もそうではあるが、それよりも毒ガスを使用した事についてだ。

 アーテルが使用した毒は、草木すらも浸食させて、変色して枯れはててしまっている。ゴブリンのみに効く毒ではなく、こんな毒を森の中で使いまくったら、森が毒に汚染されてしまう。下手をすればその影響で奇形の子が生まれるかもしれない。

 そんな事をハイエルフ族である彼女が許すはずもなかった。


 だが、アーテルはそんな彼女に対してにやにや笑いながら言葉を返す。


「ほーん、考えって何じゃ?たかがエルフごときが竜族の妾に口答えしようとは笑止!何かあるのなら言ってみるがいい!」


 ハイエルフ公国は形式上は竜皇国に服従していない友好国という関係である。

(実際は属国のようなものだが)

 友好国からクレームがリュフトヒェンに来たとしても、実質パートナーであるアーテルに対してきつく言われる事はあるまい。

 戦力的に絶対必要な自分に対して、そんなに本気で怒るまい、という甘えが彼女にはあったのだ。

 だが、そんなアーテルの余裕も、次の一言で瞬時に消え去った。


「獣肉供給禁止。」


 それを聞いた瞬間、アーテルの顔からさっと余裕が消え去った。


「んなっ!?貴様それは卑怯じゃぞ!」


 すっかり余裕のなくなったアーテルは、リュートに対して掴みかからんばかりに吠える。まだ肉用の豚などの育成場所が十分に整っていない今の状況では、自然と野生のイノシシなどと言った野生動物の肉がメインになってくる。

 それを大量に採取してくるのだから、これは森に詳しいエルフ族でないとできない芸当である。

(最近、取りすぎるとバランスが崩れるのでどうか、という問題点は出ているが)


「ふふん、そちらに大量の肉を供給してるのは私たちハイエルフ族という事を忘れないでほしいですね。これだけ獲物の位置を正確に掴んでいるのは他のエルフたちでもいませんよ?」


ぐぬぬぬぬ!と歯噛みをするアーテル。だが、やがて仕方ない、と言わんばかりにがくり、と肩を落とした。


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