第181話 生体菌類兵器
その後、親衛隊蟻人と女王蟻人は、アーテルから叩き潰されそうになりながらも、必死の説得と親衛隊蟻人の土下座により、渋々とアーテル領へと連れて帰る事になった。
一応、アリアや黒騎士たちもアーテルの護衛やら何やらで傍にはいるが、この場で一番強いのは彼女である事は間違いない。
自らの住居に連れてきた二匹を胡乱げに見ながら、人間形態のアーテルは口を開く。
「……で?お前たちが軍隊蟻人のトップである女王蟻人じゃと?いやいや、おかしいじゃろ。何で女王蟻が他の蟻人制御できんの?」
アーテルのその質問は至極真っ当である。
女王蟻人とは、全ての蟻人のトップに立つ存在。そんな彼女の言う事を聞かない蟻人など、普通に考えれば存在するはずもない。
しかも、それが大多数を占めて、女王蟻人を追い出すなど、どこからどう見ても異常である。
「とはいうものの……実際に起こったとしかこちらには言いようがなく……。
始めはごく少数だったようですが、気が付いたらあっという間に、制御の利かない蟻人たちが増えていたようで……。鎮圧しようとしたのですが、逆にどんどん増えてしまう有様で我々にも何がなんだか……。」
本気で困惑の色を浮かべながら、そう話す親衛隊蟻人。
蟻人の顔色はよくわからないが、本気で困惑しているのは理解できる。
人に戻ったアーテルは、すんすん、と鼻を鳴らして蟻人たちの匂いを嗅ぐが誰もその彼女の奇行については何も言わない。
匂いを嗅ぎ終わった彼女は、ふむ、と腕を組みながら言葉を放つ。
「ふむ、嘘はついておらんようじゃな。いや、妾、虫人どもの体臭変化とか流石に解らんから何とも言えんが。」
そう、アーテルは人間の微妙な体臭の変化や脈拍数の変化などで、ある程度嘘を見抜く野生の本能とも言える特性があるのだ。
もっとも、彼女の主観と直感で判断されるため、当たらない事もあるが、少なくとも内心で大いに動揺していることぐらいは判断できる。
最も、普通の人間と蟻人とでは体内の身体構造が違いすぎるので、それで実際に嘘をついていないか判断できるのかは大いに怪しいところではある。
「以前はそれで凄い事になりましたね……。詐欺話を持ってきた商人に対して「こやつ、妾を騙そうとしておる!死刑じゃ死刑!」と言い出した時は気でも狂ったのかと。」
「実際当たってたんじゃから文句ないじゃろ!?妾悪くないもーん。」
そんな風に頬を膨らませながら、ぷいっとそっぽを向くアーテルを見て、アリアは、はぁとため息をついた。
「ともあれ……。他の蟻人の遺体も回収できたので、今セレスティーナ様に見てもらっています。何か分かるかもしれません。」
アーテルは、リュフトヒェンに連絡を取って竜神殿の最高司祭であり、高位魔術師であるセレスティーナを呼び出して魔術空爆で吹き飛ばされた蟻人の遺体を調べている。空爆で吹き飛ばされたとは言っても、五体全てバラバラに吹き飛んだのやら、比較的原型を留めている遺体やら様々ある。
その中でも比較的原型を留めた遺体を解剖する事によって異常を確認してもらっているところである。
もっとも、遺体を解体するなど、この世界においては外道の行いのため、あくまで異常の確認と称しているのだ。
「うーん……。多分菌類、キノコの類ですねこれ。菌類が軍隊蟻人の脳近くに繁殖して操り人形にしているんだと思います。多分、その反抗した大半の蟻人たちも菌類によって浸食されてしまったのでしょう。」
その言葉に、親衛隊蟻人は驚愕の表情を浮かべる。
まさか、菌類によっていとも容易く自分たち軍隊蟻人が全滅したなどと信じられないからだ。
「菌!?菌ってキノコとかのアレ!?そんな物で我々が全滅したと!?」
「ええ、昆虫や蟻に寄生して自由に操る菌類の存在は聞いた事があります。
恐らく、それを魔術的に改造したのでしょう。
菌類に侵された蟻人を巣に返せば、そこから猛烈な勢いで菌類が蟻人たちの間で広まっていく。一種の魔導災害であり、生物災害ですね。」
それを聞いて、親衛隊蟻人は、思わず天を仰いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます