第180話 女王アリ人の逃亡
「はあ、はあ……!」
「ギ……ギギキ……!」
それからしばらくした後、一人の女性の軍隊蟻人が子供の蟻人を抱えながら、森の中を疾走していた。
道なき道を平然と走るのは、流石蟻人と言わざるを得ないが、そんな彼女を追いかける複数の存在がいた。
それは、彼女と同様の軍隊蟻人だった。
しかし、彼女と違い、その目は完全にガラス玉のように何も映していない。
しかも、動くたびに体から黄色い胞子がぽろぽろと周囲に飛散していく。
これは、明らかに菌に体に侵食され、ただの操り人形になっている事に他ならない。
「女王様……!必ずやあの不埒者たちから逃げ切ってみせます故、今はご辛抱を!」
その言葉に、彼女の腕の中の子供の軍隊蟻人はこくり、と頷く。
その異変が起こったのは少し前の事だった。
世界樹への先遣隊を派遣させ、そして帰ってきた先遣隊たちはこちらのいうことを聞かずにただ茫然としているだけの存在だった。
不審に思った彼女たちだったが、放置もできずそのままにしていた後、どんどん女王の言うことすら聞かずに同志討ちを初めてしまう軍隊蟻人たちが続出。
自分たちの言うことを聞かない不穏分子の急速な拡大に恐れを抱いた女王蟻人は、彼女たちを攻め滅ぼす事を決意。
だが、その不穏分子はさらに急速に膨れ上がっており、女王の周辺の親衛隊にすら広まっていたため、至急彼女は次代の女王アリを親衛隊の一人に任せて脱出させたのである。
彼女たちは世界樹やハイエルフたちの里を迂回して、さらにその後方の(彼女たちにとっては未知の領域)に逃げようと試みた。
だが、それに対してもしつこく不穏分子の軍隊蟻人たちは追跡してきたのである。
と、そんな追跡してくる蟻人たちから逃げ回っている彼女たちの耳に、上空から飛行音が響き渡る。
そう、それは巨大な竜、ダークドラゴンであるアーテルだった。
轟音と共に、結界と仮想エンジンで高速で上空を旋回する彼女は、森の中の軍隊蟻人たちを見つけると、すぐさま上空から魔術爆撃を決行する。
『ついに妾の領土近くまで現れおったな虫けらどもが!!根こそぎ消毒じゃー!!』
上空を飛翔するアーテルは、大体の目安をつけると、そこに上空から次々と魔力で構築された魔力球を下へと落下させていく。
降下した魔力球は、地上寸前で次々と爆発していき、木々と共に操り人形と化した軍隊蟻人どもを吹き飛ばしていく。
正確な観測を行っているのではなく、おおまかな位置測定による、つまり彼女の直観による魔術爆撃ではあるが、この近辺に味方がいないのは確認済みである。
味方がいないのなら、適当に吹き飛ばしてやれば逃げ帰るだろう、というのが彼女の考えである。
実際、吹き飛ばされた爆発によって、親衛隊蟻人の匂いが分からなくなった彼女たちは追跡を諦め、速やかに帰還していく。
自分の同胞たちもかなり吹き飛ばされているのに気にも留めず、怪我人なども全て放置したまま帰還するその姿は、諦めが良すぎて異常だった。
そして、悠々と空を飛行しているアーテルを見上げる親衛隊蟻人。
もうこの状況になっては、あの竜に賭けるしかない。
彼女は魔術で上空に閃光弾を打ち出した
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