第172話 貴方好みの女性になります。(物理的な意味で)
『はひぃ。久しぶりに体を動かすと気分がいいなぁ。
これからもちょくちょく体を動かさないとなぁ。』
とりあえず、今日の分の土木工事を終えて、小型化したリュフトヒェンは街中へ と戻ってきていた。
川で水浴びをして、土やら何やらは落としているが、それでも一日の疲れを癒すべく、彼は公衆浴場へと向かう。
当然と言わんばかりに、側には護衛を兼ねているセレスティーナも控えている。
個人的には、彼女には山のようにある書類仕事に専念してほしかったが、こちらの仕事終わりにいちいち迎えにくる健気さに口出しするのもアレか、と思って黙って受け入れていた。
彼らは、公衆浴場の混浴(当然手を回して貸し切り状態)へと入っていく。
混浴は自然と性の乱れにも繋がり、それがきっかけで古代ローマ時代にあった公衆浴場という概念はキリスト教によって大きく規制されたが、この世界ではそんな事はない。(一応、教皇庁からは禁止は呼びかけられてはいるが)
ましてや、至高神教の影響がほとんどないこの地域では、そんなことは関係ない。
着替え場に入ったセレスティーナは、するりと自分の纏っているローブと、ドレスにも似たワンピースを脱ぐと、何の恥じらいもなく下着姿になる。
雪のような白い肌にすらり、と伸びる手足、そしてアーテルほどではないが、十分に豊かな胸元が露わになる。
もうちょっと恥じらいをもって、と思いながらリュフトヒェンが目をそらしている間に下着も脱ぎ、体をタオルで包んだセレスティーナがリュフトヒェンを抱えて風呂場へと入っていく。
「それではご主人様、お背中を流させていただきます。」
ナチュラルな風呂場についてこようとしたり、ナチュラルに混浴は貸し切りだったり、その有能さや強引さは別の所で生かしてほしいなぁ、と思いながら、素直に石鹸で体を洗われるがままにする。
まあ、正直土木工事によって土まみれで働いていたリュフトヒェンにとっては、かなりありがたいのだったが。
そんな風に体を洗われている中、セレスティーナは何かさらっととんでもない事を聞いてくる。
「ところで、ご主人様は理想の女性像はありますか。是非お聞かせいただければ。」
『えっ。いきなり何。それ聞いてどうするの。』
何か不穏な物を感じて、全身泡だらけになりながら、リュフトヒェンはセレスティーナを見上げて問いかける。
「もちろん、私の体をご主人様のご要望通り身体改造します。竜血の影響で不老長寿になっていることは確認できて、満足むふーではありますが、個人的には、もっともっと竜血をいただいて永遠にご主人様のお傍にお仕えできたら、と。」
ナチュラルにさらっと人間(まあ竜人だけど)を捨てていいって言ってるよこの子。
竜血なんてそんなに一人の人間にバンバン与えたら、彼女の肉体が持たないか、眷属の竜に変化してしまうかに決まっている。
リュフトヒェンが彼女に竜血を与えたのは命を救うためであって、人を捨てるために与えているわけではないのだ。
『あの、それって人間を捨てて人外になるってことなんだけど。』
「?はい、ご主人様と一緒にいられるのなら喜んで人間なんて捨てますが何か?
もちろん、好みのルックスやスタイルなどをおっしゃっていただけるのなら、私の体もそれに合わせて魔術で改造しますので、どうぞお気軽におっしゃってください。」
いやいやいや、こえーよ。とリュフトヒェンは心の中で突っ込みをいれた。
例えば胸の大きい女性がいい、と言えば魔術で体をいじって実際に胸を大きくするつもり満々なのだ。
顔も好みの顔があればそちらに迷わず整形手術を行うだろう。
はっきり言って、そこまで狂信的に慕われる理由がリュフトヒェンには理解できなかった。
『いやいや、君はスタイルもいいし、顔も綺麗だし今のままで十分だよ。うん。
今のままの君が一番素敵だよ。』
ある意味、恐怖から来るその場しのぎの言い逃れだったのだが(そう思っているのは事実ではある)その言葉はセレスティーナにクリティカルヒットだったらしく、彼女は顔を真っ赤にしながら、俯いてリュフトヒェンにぼそぼそと礼を言う。
「あ、ありがとうございます……。そう言っていただけると嬉しいです。
ですが、この体がお好みなら、これを維持する方法を考えないと……。
不老長寿ですから、老いはまあいいとして、いざという時に備えて私の肉体の複製体も用意しておくべきか……。何かあればそちらに魂を移動させて……。」
また何か不穏な事考えてるー。とリュフトヒェンは思いつつも、泡を流した二人は二人だけでのんびりと湯舟に浸かるのであった。
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