第169話 治水工事に取り掛かろう2
そしてしばらくして、自らの部下を率いて、辺境伯がリュフトヒェン領へとやってきた。
「お久しぶりですわ~。以前のような貧乏なド田舎かと思っていましたが、中々どうしてしっかりとした街ですわね。」
辺境伯がここを訪れたのは二回目ではあるが、開拓村であった以前と比べ、極めて大きく発展している上にゴールドラッシュの景気の良さ、物流の流れによって、もう立派な街へと変貌していた。
開拓村であった頃よりも、規模自体も大きくなっており、街の外部を覆うバリケードなどもどんどん外部へと移動していった。
ガチガチに固めた城壁都市でないからできる事だが、逆にいうと防御に不安があるという事でもある。
そこは、竜であるリュフトヒェンやストーンゴーレムたちを頼りにし、少なくとも古参勢は戦える戦力であるため、それを当てにしているのである。
辺境伯ルクレツィアの言動は相変わらずだが、この程度でいちいち怒っていては彼女とは付き合えない。
スルーしながら、歓迎の挨拶を行う。
何せ、形式上は部下と言っても、実際はその成り立ちから「同盟相手」と言った方が正しい間柄である。
そんな相手に侮った態度を見せれば、たちまち反逆されかねない。
ある意味、正しい中世ヨーロッパの中央と地方領主の関係かもしれないが、ともあれ、今は良い関係が構築できているので、このまま行くだけである。
「どうも、お世話になっております。辺境伯様。
これはエレンスゲの鱗から作り上げたドラゴンスケイルになります。
どうぞお収めください。」
一度竜神殿へと訪れたルクレツィアに対して、セレスティーナはエレンスゲの鱗を使用して作り上げたスケイルアーマーを進呈する。
ニーズホッグ分体の鱗は魔術をほぼ完全に阻害する高い対魔術効果があるが、その分物理防御力が多少劣ってしまう。
バランスの取れたエレンスゲのドラゴンスケイルアーマーの方が、最前線で戦う彼女にとっては喜ばれると判断してのことである。
「まあまあ~!ありがとうございます~!そちらとはこれからもいい関係を築いていきたいものですわね~。」
ドラゴンスケイルを受け取り、にこにこ顔のルクレツィア。
それも当然だ。こんな物いくら金を払っても手に入れられない超高級品であり、同時に魔法の錬金術などを使用したプレートアーマーなどよりも遥かに防御力が高い代物である。
それがタダで手に入るのだから、笑顔にもなろうというものだろう。
だが、無料より怖いものはない。これはこちらを裏切るなよ?というリュフトヒェン側の無言のメッセージでもある。
(とはいえ、実質運命共同体なのだから裏切るも何もないのだが)
そして、ドラゴンスケイルをもらったルクレツィアは、さっそくそのままリュフトヒェンたちと一緒に近くの川へと出かけていく。
こうした場合、文章などで説明されるよりも自分の目で直接確認した方がどこにどんな処置をした方がいいかよく分かるのだ。
ふむ、と実際の川の流れや状態を見て回ったルクレツィアは、あちこちを指さしながら言葉を放つ。
「とりあえず、低い堤防を二重に築く二重堤を作るのがいいのではないのでしょうか~。無理をして完全に洪水を防ぐように作ると、その分決壊したダメージが大きくなります~。それならば、ある程度洪水を許す構造にして、溢水が浅く緩やかに流れ被害を最小限にとどめた方がいいかと~。」
現在の状況では、完全に洪水を防ぐ堤防を作る手間暇をかけるよりも、被害を軽減させる堤防を作った方が効率的であるというのがルクレツィアの判断である。
その堤防に、バアルの治水の加護をかければ効果はさらに増すはずである。
堤防の作り方によっては、水が溢れても街にこないようにするための水の流れも構成できるはずである。
「さらに大規模になると、川自体に工事の手を加えて、湾曲部・浅瀬の掘削、河岸・閘門の建設等も行う必要があるかもしれませんが……非常に大規模になるうえに何十年もかかる、手間も金もかかる作業になるので、無理はする必要ないかと~。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます