第168話 治水工事に取り掛かろう

『よーし、これで話はついた。(シャルロッテだけだけど)

 まあ、後は向こうから何か言ってこなければバンバン広めていいんじゃない?

 もっとも、信仰上、都市部までには広めるのは難しいかもしれないけれど。』


 バアル神の権能は、農村や鉱山などでは非常に有難いものではあるが、都市部ではあまり必要とされない物である。

 強いていうなら、排泄物の浄化の権能は役に立つが、それで広く強い信仰心が得られるかは疑問が残る。

 そのため、地道に農村などに信仰を広めていったほうがいい、というのがリュフトヒェンの意見である。

 そんな風にあれやこれやと会議を行っている中、セレスティーナはふと疑問に思った事を口に出す。


「しかしご主人様。国を豊かにするのに、魔術や神秘や神霊を使うのは、人類の進歩に反するのでは?」


 リュフトヒェンは人類至上主義ではないが、それでも人類の進歩や技術の革新には肯定的である。実際、火薬などの開発には積極的に取り組んでいる。

 それでも神秘に頼るには、神秘側の存在である自分自身と神秘の相性が抜群で、そちらの方が使いやすいからなのだろう。


「仕方ないんじゃー!国を豊かにするのなら使える物は何でも使う!それが権力者やろがい!!」


 ひっくり返ってジタバタと手足をバタつかせる小型のリュフトヒェンだったが、やがてそうしても意味はない、と気づいたのかごろん、と横に転がり元に戻る。


『とはいえ、神秘や魔術にも限界はあるしなぁ。バアル神の慈雨も、そんなにバンバン連発はできないだろう?」


そのリュフトヒェンの言葉に、ぺろぺろと自分の体を舐めながら黒猫の姿のバアル神は答える。


『まあなぁ。増えたとは言え、我の力の源である信仰心はまだまだだし……。力がなくなれば慈雨どころか、排泄物を肥料に変える事もできなくなるからな。

 ……そういえば、川の治水とかしっかりしているのか?我、治水の神だからある程度はできるけど……洪水とか起きたら流石にこの近辺も水浸しになるぞ多分。』


 バアル神は海神ヤム・ナハルという荒ぶる水の竜を打ち倒したとされ、自然界の水を征する利水・治水の神の側面も持っている。

 だが、そんな彼でも堤防も何もない川が荒れ狂った場合には、完全に防ぎきる事はできない。少なくとも、川から少し離れた所にある、この街全体が水浸しになってしまう事は間違いない。

交通の利便や水の確保なども考えて川の近くに街を設置したのだが、今まで荒れて洪水にならなかったのは幸いである。今のうちから治水工事に取り掛かる必要がある。


『それはアカン。早急に取り掛からないと。……所で誰か治水の技術とか持ってる?』


その問いに、セレスティーナは瞬時に答えを返す。


「それこそ辺境伯に頼ればいいのでは?辺境伯なら治水の技術、知識は詳しいでしょうから。辺境伯は竜都からもう地元の大都市に戻っていると聞きますので、呼んだらすぐ来るでしょう。ついでに、ドラゴンスケイルも渡してしまいましょう。」


なるほど。それが一番いいか、とリュフトヒェンは頷いた。




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