第155話 金鉱石について
それからしばらくした後、アーテル領から送られてきた金鉱石がセレスティーナとリュフトヒェンの前に置かれていた。
セレスティーナはそれを見ながら口を開く。
「これがアーテル領から掘り出された金を含んだ鉱石になります。
ドワーフたちに調べてもらいましたが、かなり金の含有量が多い優秀な鉱山のようですね。これから、灰吹法で金のみを採取して、辺境伯の大都市へと輸送します。」
鉱石から金のみを歳出する方法はいくつかあるが、その中でも古くからあるのが灰吹法である。
灰吹法は粉々にした金鉱石を鉛に入れて溶かすことで、金のみを採掘する方法であり、これによって作られた金を含有する灰吹銀に鉛および硫黄を加えて硫化銀を分離し、金を残すという方法が行われていた。
硫黄もアーテル領から大量に取れるのでそれは問題ない。
「この含有量ならば純度の高い金がそれなりに取れるので、それをそのまま金貨へと加工していく感じでしょうか。
とはいうものの、質のいい金貨を作り出しても「悪貨は良貨を駆逐する」の例え通り個人の手元にしまわれて経済に悪影響を与えそうなのが……。
私も経済については詳しくないので、金の輸送だけして、後は専門家に投げましょう。」
つまり、金貨の金の含有量を増やしたりするのは、貨幣改鋳であり、そのまま経済への影響が大きくなる。金本位制であるこの世界ではなおさらである。
単純に質のいい貨幣を作り出せばそれでいい話ではない。
質のいい貨幣が出回ると、それだけ貨幣の価値が上がり、物価が下落するというデフレーションが起こる可能性がある。
そのような繊細な事を経済に詳しくない竜と魔術師兼竜の巫女だけで決定するのは無理がある。
『そうだね。辺境伯とかシャルロッテとか経済の専門家に投げておこう。
素人が勝手な事すると面倒な事になりそうだし。しかし、これ輸送はどうするの?護衛とか結構面倒だよね?』
「そうですね……。いい機会なので、川を通行路として本格的に利用しましょうか。
船に金や様々な物資を積んで下流に移動して、船着き場まで輸送。
そこで金や物資を下して、そのまま辺境伯の大都市まで輸送というのはどうでしょうか?」
確かにセレスティーナのアイデアは悪くない。
金というのはとにかく重い。それらを抱えてえっちらおっちらと陸路を進んでいては、山賊や盗賊たちのいい的になってしまう。それらができるだけ少ない方がいいに決まっている。
幸い、リュフトヒェンの村のすぐ近くにある川は、下っていけば隣町までの近くにまで辿り着けるはずだ。
街道も発達はしてきているが、それを狙って山賊などもこの近辺に巣食い始めたと聞く。ならば、重い金を船に乗せて送った方がスムーズにいくだろう。
『分かった。至急商人連合に手配して船を用意させよう。後は護衛はどうしようか。』
「それなのですが、我々に従ってくれたリザートマン族を船の護衛につけるというのはどうでしょうか?彼らならば船上だけでなく、川中でも十分戦えるので船の護衛にぴったりかと。後は、彼らは水中の召喚獣も召喚できるとの事なので、一度下った船を上流に引き戻すための動力機関役にもなってくれるはずです。」
なるほど。それならリザートマン族を川の護衛として雇わない手はない。
さっそくリュフトヒェンはリザートマン族に依頼することにした。
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