第146話 解毒と脱皮
『がああああああ!』
前腕が毒液によって侵食されたリュフトヒェンの腕は、その純白の鱗が見るも無残にどろどろに融解してしまう。
このままでは、鱗を融解した毒液が皮膚を通して体内に侵食しかねない。
金属を遥かに上回る竜の鱗を融解させた毒液が体内に回れば、いかに生命力溢れた竜であろうとダメージを食らってしまう。
爬虫類の鱗は表皮が起源であり、細胞としては既に死んだものが強化・硬化したものである。鱗自体が融解するのはまだ問題はないが、そのまま毒が鱗を融解して筋肉や血管にまで入り込むと非常に厄介である。
竜の鱗には、外表面と内表面があり、そこの間には空間があり、前の鱗の内表面からは皮膚が出て繋がっている。
リュフトヒェンは、自らの前腕に片方の爪をめり込ませると、そのまま融解した外表面の鱗と同時に内表面の鱗もはぎ取っていく。
イメージとしてはかさぶたをはぎ取っていくような感じだ。
痛いは痛いが、皮膚を根こそぎはぎ取っていくよりはマシである。
しかし、戦闘中で高速で飛行している時にそんなに呑気にしている余裕などはない。
《何やってるんじゃ!皮膚ごと剥ぎ取るか脱皮でもしてさっさと鱗ごとパージしろ!気合入れれば脱皮ぐらいできるじゃろうが!!》
《脱皮って気合でできるの!?そういうものなの!?》
今まで一度も脱皮を行った事のないリュフトヒェンは、アーテルの言葉に思わず困惑する。
だが、脱皮というヒントが与えられた以上、魔術でそれを何とかする方法はある。
治癒魔術の応用で、前腕の代謝を猛烈に加速させて、下から急速に皮膚を育てて脱皮を促す。それがうまく言ったのかみるみるうちに、リュフトヒェンの皮膚が融解した鱗と一緒に剥げ落ちて降下していき、前腕は新しい皮膚で覆われている。
鱗までは生えてはいないが、ダメージでも受けない限り問題はないだろう。
一応解毒の魔術も自分自身に対してかけているので、少なくともすぐに命がどうこうなる、という訳ではならないはずである。
一方、背中の鱗と弱点の目をむき出しにされたニーズホッグ分体は、血をまき散らしながら暴れまわっていた。
退化して暗闇に適応した眼球がそのまま太陽の元にさらされれば、猛烈な光により凄まじい痛みが襲い掛かってはるはずである。
しかも、背中の鱗も剥がされてそこからも大量の出血が流れているのだ。
これで暴れまわらない方がどうにかしている。
咆哮を上げてのたうち回りながら、やたらめったらと毒気を吐き散らかすその有様は、痛みに苦しむ野生動物そのものだった。
訓練された兵士たちや、意思の強い竜などなら痛手を受けてもなお反撃を行っているところだが、猛烈な痛みに耐えかねて冷静な判断ができないのが魔獣の悲しい所だった。
その痛みに苦しんでいる姿を視界に捉えて、アーテルはにんまりと笑みを浮かべる。
《よっしゃ、いい感じに弱っておるな!おまけに魔術を弾く鱗も背中部分は失われた!このまま一気に止めを指すぞ!》
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