第140話 戦闘準備
リュフトヒェン領は、商人連合からお金を出してもらい、街道も少しずつ改良を行い交通量なども増やすようになっている。
金採掘の最前線に存在しているアーテル領に大量の物資を送り込むため、多くの人間で賑わい、非常に活気も景気も良くなっていた。
関所などもこの地域には存在していないため、さらに人や物資がスムーズに流れこんで、以前のひっそりとした開拓村が嘘のようであった。
そして、そんな大賑わいの村を見ながら、ハイエルフのリュートは、目をキラキラさせながら、お上りさんのようにあちらこちら見て回っていた。
「うわあ!これ何ですか!あっ、これたぶん食べ物ですよね!どんな味がするんだろう!」
どうやら、彼女は閉鎖的なハイエルフの種族にしては、かなり好奇心が強いらしい。
そういった好奇心の強いハイエルフは結界の外に出て、冒険者として活躍するパターンもあるらしいが、それは置いておく。
こんなド田舎でそんな風になるのなら、竜都に連れていったらどうなることやら、と思いつつも、小型化してパタパタと飛んでいるリュフトヒェンは彼女に対して話しかける。
『あーこらこら。勝手にふらふらとどこかに行って迷子にならないように。
とりあえず、これから肝心な話があるんだから、まずはそれからね。』
彼らは、リュフトヒェン領に新しく建てられた竜神殿へと向かっているのである。
ここでは、空帝ティフォーネを崇めており、その派生神として神としてのバアル神も祀られている。
セレスティーナの拠点地であるこの神殿を、あちこちに立てて人々の信仰を集めたり、不満を聞いて政策に生かしたりしようというのが彼女の考えである。
そんな中、人型のリュフトヒェンといちゃついて気力マックスのセレスティーナはおお張り切りで仕事を行おうとしていた。
「よーし!バリバリ仕事をこなしますよー!まずはエレンスゲの肉からですね!」
そう言いながら、彼女はテキパキと指示を出して、女性たちに肉を切り出して樽に詰めて、一方の樽には錬金術師たちが作り出した独自の猛毒を入れ、もう一方の用意した樽には発酵と匂い中和の呪文を使用していく。
これをアーテル領にまで運んで、後はハイエルフに世界樹まで運んでもらおうという考えである。
その発言を聞いて、リュートはえっ?と驚きの顔を見せる。
「えっ?これ、私たちが運ぶんですか?失礼な!私たちは誇り高いハイエルフ種族ですよ!それがこんな事を……!!」
『そもそも、なし崩し的にニーズホッグ分体と戦う事になってるけど、いくらなんでもタダで戦うなど全くもって割に合わないの理解してる?
何かしらの利益をもらわないとこっちも慈善事業でやってるんじゃないんだから。』
その言葉に、リュートはぐぬぬ、と黙り込む。
確かに彼の言葉は正論だ、と思っているのだろう。
今の彼女たちは言うなれば侵略者だ。そんな彼女たちのために元々の居住地を取り戻すために戦うなど、お人よしがすぎるという物だろう。
逆にそれなりの物を捧げて、チャラにしておかないと誇り高きハイエルフとしては屈辱の極み、お情けをかけられた、となってしまう。
「……それについて長老たちから許可をもらいました。
居住地を取り戻したときには、私たちが所有するミスリル鉱山にそちらに譲るので、それで貸し借りはなしにしてほしい、との事です。」
エルフにとって、ミスリル鉱山は絶対に手放したくない場所の一つだ。
だが、それでも聖地である世界樹や自らの居住地を鉱山一つで取り戻せるのなら安いものだ、という苦渋の決断なのだろう。
それに頷きながら、セレスティーナは言葉を続ける。
「それで、他にもいくつか案は考えてみました。その内の一つは、私がご主人様の竜血をさらにいただいて、私の体内の竜因子を活性化させ、さらに魔術を使用して私自身が祖先と同じ竜に変化する「祖竜回帰」のプランも考えてみました。これなら、単純に戦力がさらに増えます。」
『……それ、大丈夫なの?』
「大丈夫か、大丈夫じゃないかと言われたら大丈夫じゃないですね。これはいわゆる禁術の一つですから。耐えきれずに私の体が弾けとんだり、制御に失敗して異形の怪物になる可能性も十分にあります。」
『却下。(即答)大事な君を失う作戦はできるだけ避けて。君だってもうこの国の重鎮なんだし。』
何で基本的にそんなに捨て身なんだよ……。と思わずリュフトヒェンは心の中で突っ込みを入れる。確かに戦力は必要ではあるが、それで彼女が失われてしまっては、大きな損害どころの騒ぎではない。
「そうですか……。それではセカンドプランに移行しましょう。
相手がニーズボッグ分体なら宿敵であるフレースヴェルグも力を貸してくれるでしょう。交渉してみます。」
フレースヴェルグは、ニーズホッグのライバルであり、元々は巨人が変化した極めて巨大な鷲であるとされる。
彼はニーズホッグと極めて中が悪く、リスのラタトスクを介してお互いを罵りあっている険悪な間柄だ。
そんな彼なら、ニーズホッグと戦うといえば喜んで力を貸してくれるだろう。
「フレースヴェルグなら確かに竜族に匹敵するほどの力を持っているよな。……毎回力を貸してもらえるとかできないの?」
「難しいですね……。向こうは高慢で気まぐれですから、当てにしない方がいいでしょう。ですが、今回は宿敵のニーズボッグと戦うのであれば、力を貸してくれると思います。」
その言葉に、リュフトヒェンは了解と頷いた。
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