第134話 エルフたちの散発的襲撃
さて、何とか自分の手下である傭兵団を正式な騎士にしたアーテル。
彼らの力を借りて領地(村)の治安平定、さらに新しい村の開拓、金鉱山の開拓とやるべき事は山のようにあった。
だが、そんな中で最もアーテルの精神的に辛い事と言えば……。
「はい、こちら今回の宝石です。こちらでお支払の方をお願いします。
後相談なのですが、商人連合の方で読み書きや計算ができる人たちはいませんか?」
そう、それは彼女の財産がみるみるうちに減って行ってしまう事である。
もちろん、長年に渡って(強奪で)集めた彼女の財宝はこれだけでどうこうなるはずもないが、それでも財産の大切さを覚えた彼女にとって、自分の財宝がみるみるうちに減っていくのは精神的に辛かった。
「んあああああ!!何で妾の財宝が減っているんじゃああああ!
こんな事はおかしい!許されない!食っちゃ寝食っちゃ寝の妾の優雅な生活がー!!」
そんな風に叫びながら、床をゴロゴロのたうち回るアーテルを見て、アリアは呆れた声を出す。
「あのですね……。鉱山経営なんて初めはそれこそ山のようにお金がかかるに決まってるじゃないですか。山を掘るための人手、道具その他諸々の初期投資は非常にかかるとお伝えしましたが……。」
それは当然だ。鉱山経営にはとにかく金がかかる。鉱物が出てきて順調に経営活動ができるまで、赤字経営は当然である。
「聞いてなーい!妾聞いてないもーん!都合の悪い事は聞こえないもーん!」
ぷいっとそっぽを向くアーテルに対して、全くこの社会的幼女は……という呆れた表情をするアリア。
いかに社会的幼女と言っても金がかかるという事は理解しているだろうから、「自分の財産が減っていく」という事が純粋に悲しいのだろう。
はあ、とため息をつきながら、アリアはアーテルの説得を続ける。
彼女の極端な性格からいって「じゃあ出ていく金を引き締めればいいんじゃな!?」と極端に支出を切り詰めれば、その分人も集まらなくなり、鉱山経営自体が行えなくなってしまう可能性もある。
「『じゃあ金を引き締めればいいんじゃな!』と鉱山夫たちや住民たちの居住地の建設費などをケチるのはなしですからね。今はお金の使い時、そう、これは初期投資なんです。鉱山採掘の初期なんてお金がかかるのは当然なんですから、バンバン使っていきましょう。」
「うう……。妾の金ェ……。そういえば、ちょっかいかけてくるエルフどもはどうなっておる?撃退できたか?」
その言葉に、机に座って計算をしていた黒騎士も言葉を放つ。
文官が足りない……というかほとんどいないアーテル領の現状では、読み書き演算ができるアリアと黒騎士が一手に引き受ける形になってしまっている。
そのため、商人連合を通して計算のできる人間を大量に引き入れようとしているのである。
それはともかくとして、ペンを走らせながら、黒騎士はアーテルの答えを返す。
「いやぁ、ありゃ流石にダメだな。地形に隠れてこちらが出ていくとさっさと逃げやがる。流石に森の中でエルフたちと戦ったらこちらが殲滅されるだろうしな。」
それはそうだ。人間の兵士たちがエルフたちに森の中で勝てるはずがない。
せっかくの貴重な地上兵力を減らすわけにはいかない。
起き上がったアーテルは、思わず床に足をダンダンと叩きつけて地団駄を踏んでしまう。
「あーっもうムカつく!腹立つ!!あのエルフどもめ!ここは妾の縄張りじゃぞ!エレンスゲがいなくなったからと言って露骨に干渉しおって!!根こそぎ滅ぼしたい!」
「そういえば、アーテルは様は飛行できるのだから、上空からエルフの里を見つけ出せるのでは。」
ぶすっ、と腕を組んだ状態で不機嫌そうな表情で、アーテルはアリアの疑問に答えを返す。
「やってみたけどダメじゃったわ、奴らめ、流石エルフだけあって完璧に里を偽装しておる。上空からでは奴らの里を見つけ出すことができなんだ。
恐らく、奴らが崇める世界樹の麓付近にいるかと思うが……。あーっ森ごと全部焼き尽くしたい!!」
世界樹とは、アーテル領からさらに奥部、およそ大辺境の中心付近に存在する200メルーを超える非常に巨大な樹である。
数千年を立ち続けても存在しているその神聖な木はエルフ、ハイエルフ問わず信仰の対象になっており、流石のアーテルもそこに手をつける気はないらしい。
(やったらほぼ全てのエルフが敵に回る事になってしまう)
上空からの偵察は、戦略的には非常に有利だが、それでも完璧に偽装を行い周囲の自然に溶け込めば上空からの探索から逃れることができる。
特にエルフは偽装が非常に得意なため、その真の住処を上空から探索する事は難しい。この技術を使用して、この大辺境に住まうエルフは竜の襲撃を免れていたのである。
「世界樹は、大辺境から各地に流れ出す大地の地脈にも関与しているため、流石の妾でも攻撃を仕掛けるつもりはないわ。だが、それにかこつけてネチネチとこちらに攻撃を仕掛けてくるエルフは別じゃ!邪魔くさいことこの上ない!」
エルフたちは森、地形に隠れたゲリラ戦法で一撃離脱戦術を行ってアーテル領に攻撃を仕掛けている。
本格的な攻撃ではなく、恐らく威力偵察程度の散発的な攻撃なのだが、嫌らしい事この上ない。
兵士や黒騎士たちもエルフたちのフィールドである森に足を踏み入れるほど愚かではない。もし安易に追撃などしたら、ベトコンを追撃した米軍よろしく、瞬時に殲滅されられるのは間違いない。
アーテルもそれを理解しているからこそ、無理に迎撃しないように命じているのだろう。
「アーテル様、エルフにはエルフ。リュフトヒェン様の所にいるエルフたちに助力を求めてはいかがでしょうか?最も、向こうは敵地のため本格的な撃退は難しいでしょうが……。」
「うーむ、仕方ない。向こうの伝手を頼るか。最悪襲撃を防げたらそれでよしとしよう。」
そうして、リュフトヒェン領からエルフたちを呼び寄せて聞いてみたが、その言葉は芳しいものではなかった。
「……難しいですね。完全に向こうの領地の森は我々エルフでも危険です。
しかも、襲ってきたのは、恐らく我々の上位種族であるハイエルフ族でしょう。彼らは、世界樹を守護し、その麓で暮らしていると聞きますが……。」
流石に、敵地の縄張りである森に対して攻撃を仕掛けるのは、同じエルフであろうと危険が伴う。
だが、そこでふとアーテルは疑問の声を上げる。
世界樹近辺に巣食い、強力な異界の結界を張って自分たちを保護しているハイエルフがなぜこんなところまで来ているのか。彼らはそんなに活発的ではないく、現世にも興味がないはずだ。
「?何でハイエルフ族がこんな所まで来てるんじゃ?あやつら引きこもりじゃろ?」
「さあ?それは聞いてみないと解りませんが……とりあえずコンタクトを取ってみますか。エルフ族の我々ならば、むやみな排斥はしないと思うので、使者として行ってみます。」
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