第126話 複合属性大魔術
今までミサイル代わりの炎の矢で順調にダメージを与えていたというのに、いきなりの脱皮という荒業によって、今までの攻撃が事実上無効化されたアーテルは、思わずエレンスゲに対して通信で罵声を浴びせる。
しかも、その脱皮は、副次的な効果をもたらしていた。
剥ぎ落された皮と同時に、エレンスゲの多数の鱗もパラパラと空中に舞い散って行ったのだ。
《クソッ!あやつめ!脱皮と同時に無数の鱗をばら撒きおった!これでは追尾術式が使えんぞ!!》
以前リュフトヒェンが行ったように、竜の鱗は空中でばら撒けば、追尾術式を撹乱できるチャフになり得る。
脱皮と同時に、その鱗が大量に空中にばら撒かれてしまった以上、大量のチャフが空中に散布されたのと同様である。これでは追尾術式は使用できない。
だが、エレンスゲも決して無傷ではない。
《うげっ!あやつまだ下の皮が出来上がっていないのに無理矢理脱皮したのか!グロ映像じゃぞグロ映像!!》
そう、エレンスゲはまだ下に満足に皮膚とも言える皮が十分できていない状態で無理矢理脱皮したのである。
皮膚を失い、ほとんどの部分が筋肉が剥き出しの状態になってしまったエレンスゲは、人間で言えば、全身の皮が剥がされたのに無理矢理戦っているような状態である。
そんな状態では、まともに戦えるはずもない。皮膚を失ったこの状況では、風が吹いただけで猛烈な痛みが走るのだ。
エレンスゲは、痛みにのたうち回りながら、四方八方に炎を吐き散らす。
恐らくしばらくすればその再生力で、皮膚自体が全て再生するのだろうが、この絶好のチャンスを逃すリュフトヒェンたちではない。
再生と飛行時の風圧の痛みを最小限にするため、速度をがくん、と落として事実上浮遊している状態のエレンスゲ。
その状態で、リュフトヒェンたちを近寄せないように、周囲を残った五本の頭でランラムに火を吐いていく姿はまさに空中戦艦と言ってもいいほどだった。
だが、その炎を回避しながら、リュフトヒェンはぐるり、とエレンスゲの周囲に大きな円を描く機動を取り、その後で真横、斜めと直線を描いて機動を行い、エレンスゲを中心にする巨大な五芒星を空中に描く。
通常ならば、高機動で空を飛ぶ相手はこうした五芒星に封じる事はおびき寄せるのでもないと難しいが、今の浮かんでいるエレンスゲならば十分である。
そして、その空中に描かれた五芒星を起点として、リュフトヒェンは多大な魔力による大魔術の起動式を作り上げ、大魔術をエレンスゲへと発動させる。
《シュタイフェ・ブリーゼ・シュラーク!!》
リュフトヒェンのその詠唱と共に、五芒星内部の空間中に猛烈なソニックウェーブと真空刃、そして強力な雷撃が荒れ狂い、五芒星内部に存在する敵を切り刻み、雷撃で焼き尽くす。
風の大魔術と雷の大魔術との複合魔術。
以前のリュフトヒェンでは大魔術の合成など出来なかったが、最低ランクとはいえ神竜に昇格したリュフトヒェンならばそれも可能である。
自らの体を守る鱗も存在しない今のエレンスゲは、まるで豆腐が切り裂かれるように空間内部のソニックウェーブと真空刃によってズタズタに切り裂かれ、引き裂かれていく。
火力の源である首も例外でなく、ソニックウェーブと真空刃によって切断され、捻じ曲げられて引きちぎられていく。
それは、まさしく強力な台風の威力を連想させるものだった。
そして、その引き裂かれた肉体に襲い掛かり、肉体を焼き尽くしていく雷撃の嵐。
風と雷撃によって、鱗に覆われていない、防御結界も展開していないエレンスゲの肉体はズタズタになっていく。
《今だ!アーテル!!》
その大魔術の行使によってエレンスゲの肉体がズタズタに切り刻まれている中、アーテルは体を傾けて旋回し、エレンスゲの正面へと回り込み、ヘッドオンの態勢になる。
そして、ヘッドオンの状態になったアーテルは、ミサイル代わりの炎の矢を何十も生み出し、次々とエレンスゲへと射出していく。
赤い火の粉を撒き散らしながらミサイルよろしく真っすぐに直線していく炎の矢を回避できるほどエレンスゲに余裕はない。
切り裂かれたり、ねじ切られたり、雷撃を食らって傷ついたりしている首に次々と炎の矢が叩き込まれ、爆発・炸裂して首を吹き飛ばしていく。
首を全て失ったエレンスゲは、首の傷口から煙を噴き上げながら、ふらふらと空中を漂う。それでもまだ飛行できているという事は、どこかにまだ脳が存在しているという事だ。
……恐らくは七つ首の付け根部分。そこに全ての首を統率する脳があるはずだ。
そう考えたリュフトヒェンは、一度上空に垂直上昇を行い、続いて反転して、ふらふらと飛んでいるエレンスゲを目掛けて急降下する。
狙いは、エレンスゲの多頭の首の付け根。
急降下を行いながら、リュフトヒェンは、口を開きブレス用の魔力充電を行う。
帯電する魔力、プラズマ化していく雷撃、そしてプラズマが大気を焼く独自の匂い。
リュフトヒェンは、自らの目でターゲットロックを行うと、そのまま自らのブレスを放った。
ーーープラズマドラゴンブレス。
以前の数倍の威力を持つそのプラズマの吐息は、大気を引き裂きながら、真下にいるエレンスゲに迫り、首の付け根に命中し、その部分を消滅させながらエレンスゲを貫いた。
流石のエレンスゲも首を失い、脳を失ってはどうしようもない。
そのまま、エレンスゲは力尽きて地上に落下していった。
これで戦いの決着がついたのである。
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