第121話 火薬量産と練兵

その後、アーテル領から大量の物資を入荷して、それを紙に纏めて報告するセレスティーナの姿があった。


「とりあえず、アーテル領から大量の土と硫黄、強酸性の液体、そしてミョウバンや緑礬などが送られてきましたので、お金と引き換えておきました。

 魔術師たちの手で、これらを火薬に加工する準備を始めます。」


 領地を守るためには、まず何と言っても武力が必要になる。

 今はリュフトヒェンやアーテルがいるからいいとしても、やはり怪物たちが襲ってきた時の防衛力、自衛力は強ければ強いほどいい。


 リュフトヒェン領ではエルフやドワーフたち、竜人など様々な亜人は存在しているし、個々の戦闘能力は強いのだが、皆てんでバラバラで連携が取れていないのが実情である。これでは到底強い軍など作れない。

 彼らに対して皆一律の遠距離攻撃兵器としての銃を持たせるのは、戦闘の連携を行うためにも最適だといえた。

 さらに、彼ら亜人の連携統一を行い、軍としての能力を持たせるために、元は傭兵などであった騎士たちが彼らに練兵を行っている。

 強靭な肉体を持つドワーフや竜人たちが前線に立ち、敵に突撃していき、エルフたちは弓を使って後方から彼らに対して援護射撃を行う。


『よしよし、亜人たちの練兵と意思統一を行ってくれるとはこういう時に騎士教育を受けた人間は頼りになるなぁ。

 いずれはゴブリンの住処でも侵攻して実戦を積ませるか……。』


 リュフトヒェンだけが強くても、他の人々が弱くてはいつまでたっても進歩がない。

 リュフトヒェン領の亜人たちも軍として連携を行って敵を撃退する能力を身に着けて自衛しなければならない、というのが皆の総意である。

 リュフトヒェン領も、まだ山岳要塞と村一つだけという状況なので、これからどんどん開拓して住める土地を増やしていきたいというのが本音である。

(実際、有り余る人材が村に流れてきているので、さらに居住地を広げる作業は行っているが)


『よし、それじゃその間に色々な火薬作成に入ろう。

 これから火薬は大量に必要になるだろうし、火薬を自分たちの手で作成できれば防衛的にも大いに約に立つ。じゃんじゃん作っていこう。』


 リュフトヒェン領とアーテル領から掘り出された土を使い、土を溶かした水溶液を作りその水溶液に灰を入れて濾過させて凝縮させると、硝酸カリウム、つまり硝石が発生する。この硝石こそが火薬にとって最も重要で貴重な物質である。


その硝石に硫黄などを混ぜて黒色火薬は完成するが、それだけではなく、セレスティーナたちは別の新型の火薬作成にも手をつけた。

それは煙の出にくい火薬、つまり無煙火薬である。

これは、シュメルツェン火山から産出した強酸性の液体をさらに酸性を強め、硫酸を作り出し、さらに緑礬と硝石を混ぜて乾留することによって硝酸を混ぜる事によってニトロセルロース、無煙火薬を作りだしたのだ。


『マスケット銃はもう辺境拍から譲り受けているから、黒色火薬の代わりにこの無煙火薬で撃てないか試射してみよう。これで上手くいけばさらに強力な銃が開発できるかもしれん。』


―――それからしばらくして。

リュフトヒェン領の村から少し離れた複数の洞窟。

そこには、武器を持った複数のゴブリンやオークが出入りを行っていた。

流石にドラゴンであるリュフトヒェンの開拓村を襲う気はないが、街道を通る馬車や何やらを襲えば人間の若い女や馬の肉、様々な物資などを確保できるなどという事を覚えてしまった山賊と同レベルの集団である。

と、なれば、山賊扱いと同様に扱い、つまり退治を行って街道安全確保を行わなければならない。


「撃て!!」


そんなゴブリンどもに、一斉に轟音と共に銃弾が叩き込まれた。

木々に隠れたマスケット銃を持つエルフ狙撃隊の攻撃である。

そして、その音に驚いて、洞窟から飛び出してきたゴブリンどもに、エルフたちの弓の攻撃が降り注ぎ、次々と倒れていく。


「突撃!!」


さらに、いきなりの奇襲に混乱しているゴブリンやオークたちに対して、斧を手にしたドワーフの突撃部隊や、槍を手にした歩兵部隊、竜人部隊が突撃していって、彼らを一網打尽にしていく。

それを見ながら、小型化して空からそれを見下ろしているリュフトヒェンは満足げに呟く。


『よしよし、我や魔法の力を借りずとも十分に戦える兵士たちになってるな。

この感じで実戦を繰り返して、熟練の強い兵士たちになってもらおう。』






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