第112話 それでいいのかダークドラゴン。

 シュメルツェン火山に対して、リュフトヒェンの頼みでドワーフたちが鉱脈が存在しないか軽く探索を行った。

 ドワーフたちは体も極めて頑丈であり、こういった鉱山、鉱物の専門家である。

 下手な山師に頼るよりも、彼らに頼った方が遥かに早いし頼りになる。

 そして、彼らに見てもらった結果が―――。


「とりあえず調べてみたが……かなり大規模な金鉱脈に銀鉱脈があるようだな。

 他にも色々な鉱物資源が出るかもしれん。

 何せ竜がいるから今まで誰も手出し出来なかった前人未到の鉱脈だからな。期待できるかもしれん。」


 そう、金鉱脈と銀鉱脈の発見である。

 やはり強酸性の池に砂金があったように、他の部分から流れる川から砂金も見つかった事から金鉱脈、しかもかなり埋蔵量があるであろう鉱脈が発見されたのである。

 そして、それに一番喜んだのは、この火山を事実上所有しているアーテルだった。

 彼女は自らの居住地である巨大な洞窟内部で、笑いが止まらない、と言わんばかりに呵々大笑する。


「よっしゃあ!妾もう竜生勝ち組じゃ!美味しい物だけ食べて後は竜生まったりモードじゃ!遊んで暮らすぞ!」


 はっはっは!と倒れるほど反り返って哄笑するアーテル。

 だが、こんな世間知らずの竜に大金が舞い込んできたら、破滅まっしぐらなのは誰の目から見ても明らかである。

 宝くじで大金を当てた人間は、贅沢に慣れきって大金をばら蒔いて結果破滅するパターンが多いというが、彼女もその典型的なパターンである。


 だが、それはリュフトヒェンたちも危惧していた事であり、それを防ぐために、事実上のアーテルの側近である幼女アリアにしっかりと言い含めていたのである。


「アーテル様!浮かれるのは解りますが、私たちは大きな問題に対面しなくてはいけません。それは……鉱毒です!」


 鉱毒。それは鉱山の最大の問題点であり、多くの人々を苦しめた存在である。

 特にこの大辺境は惑星の地脈の臍とも言える場所であり、そこが毒で汚染されたとなれば、地脈に多大な悪影響が出る可能性がある。

 そうでなくても、自然を守護するべき竜が鉱毒をまき散らし、自然を汚染するなどといったことがあれば、自分自身の存在意義を失う事になる。

 それは、竜族の誇りにこだわるアーテルには認められないことだった。


「むっ?鉱毒……。確か大地の毒が周囲の大地や水にまき散らされる状況じゃったな。妾の領地でそんな自然汚染が起きる事など断じて許すことはできん。

 何か手段などはないか?」


 鉱山から排出された排煙、鉱毒ガス、鉱毒水などに含まれる重金属や汚染物質は、周囲の動植物を汚染し、さらに人間にまで悪影響を与える。

 重金属は農作物や水にまで汚染を広げ、その生物濃縮により人間の健康すら容易く汚染するのだ。

 足尾鉱毒事件やイタイイタイ病などがその有名な例である。

 そうなれば、いかに竜であるアーテルも無事ではすむまい。


「そうですね……。まず簡単な手段は魔術による浄化でしょうか。

 セレスティーナ様から鉱毒に汚染された水や土でも土浄化や水浄化によって汚染を取り除き、通常に戻せるとの情報を聞いています。

 鉱山から出る土や水には徹底して浄化魔術をかけるように義務づけましょう。」


「さらにまあ、コストはかかりますが……。念のため、鉱毒を処理する鉱滓ダムを造っておきましょうか。

 湧き出た水と鉱毒をダムに貯めて、鉱毒を底にためて、上澄みの浄化した水だけを他所に流すシステムです。念には念を入れておいた方がいいでしょうから。」


 アリアの言葉に、アーテルは深く頷いた。


「うむ、了解した。費用については心配するな。我が領地に毒をまき散らされるよりもよほど良い。……で、妾が金を稼ぐためにはどうすればええんじゃ?妾も掘った方がいいのか?」

 

 そのアーテルの言葉に、アリアはいいえ、と首を振る。

 これもセレスティーナからあらかじめ言い含められていた事であり、アーテルに安全に金を稼がせて、さらに無駄使いさせないように様々なアイデアが与えられていたのである。


「いいえ、ゴールドラッシュで一番儲かったのは、金を掘る採掘社たちではありません。彼らに対してツルハシや生活必需品を売る人が一番大儲けしたのです。

 つまり、金を掘るのではなく、周辺ビジネスに目をつける事が大事です。」


「幸い、ここはアーテル様の領地、他人に口出しされる事はありません。

 まずは、飲食店や宿泊施設を増設する事から始めましょう。

 さらに、スコップやツルハシを買い占めたり、頑丈なズボンなどを作って売れば大儲けします。しかも、飲食店を増設すれば、アーテル様のお望み通り、美味しい食事もすぐに食べられる事になります!」


 ただ、大儲けを企み過ぎて、飲食店や宿泊施設を作りすぎて、鉱脈がなくなってしまった後で寂れていくのは実にあるあるである。

 そこの部分は上手くコントロールしていかなくてはならない。

 金鉱脈やらがなくなっても、この自然が作り出した威容やら温泉やらを観光資源として活用していけば、十分採算は取れるだろう。

 そのアリアの言葉に、アーテルは瞳をきらきらさせながらアリアを見つめる。


「な……。何という事じゃ……!!金を稼ぐアイデアを出して、さらにその上で美味しい物をいつも食べれるようなアイデアを出すとかお主天才か……!

 妾、お主に一生ついていくぞい!!」


 散々言っていた竜の誇りとやらはどうした?人間の少女にそんな事言っていいのかダークドラゴン、と色々突っ込みたいところはあったが、彼女が満足そうでこちらの言うことも聞いてくれるのならもうそれでいいや、とアリアはもう考えるのを放棄した。


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