第111話 シュメルツェン火山
その後、辺境伯のお膝元の都市から出発した旅団は、スムーズに大辺境へと向かっていった。ここら辺の領主たちは辺境伯に使える領主たちであり、流石にリュフトヒェンたちに逆らう気などはない。
リュフトヒェンたちも自分たちに逆らう気のない領主たちを処罰する気などない。
そのまま大辺境外周部の村へとたどり着くと、その村を補給地点として、補給物資の予備を置いて、開拓村へと進んでいく。
すでに辺境伯ルクレツィアには連絡を行っており、この外周部の村が開拓の補給物資の中継地点としての機能を持たせるという事で話がついている。
物資の中継地点になると言うことは、人・物・金が集まってくるということであり、当然村としても反対する理由はなかった。
元々辺境の寂れた村がそんなに大きくなって発展するなど、村長としても村人としても大歓迎である。
今は多くの人たちが泊められるように宿屋やら食堂やら何やらも作られている事からもそれは事実だった。
(この建築費などは辺境伯ルクレツィアから出されている)
このプランが上手くいけば、補給物資を運送する大都市のみならず、街道界隈も賑わいを見せ、経済がさらに向上するのだから、辺境拍としても反対するつもりはない。
むしろ、金を出して街道沿いの宿泊施設などの建築などに力を入れているぐらいだった。
そして、以前開拓した道を通ってリュフトヒェンの拠点の山岳要塞と開拓村へとたどり着くと、そこには遥か以前に空を飛行してたどり着いていたアーテルが腕組みをしながら待ち構えていた。街道を大人数でノロノロと進んでいる旅団と、文字通り一飛びで行き来できるアーテルとは速さが違いすぎる。
散々待たされていたのか、人間体のアーテルは腕組みしながらふんす!と鼻息を荒くする。
「まーったく、ようやく到着したのか。遅すぎるわい。全く。
とりあえずお主の開拓村から人手を借りて、開拓拠点を作っておいたぞ。人間はクソザコじゃからのう。」
もちろん、アーテルたちもこの期間ただ待っていた訳ではない。
開拓村に存在していた竜牙兵やストーンゴーレムの力を借りることによって、未開拓だったリュフトヒェンの拠点とアーテルの拠点までの道を切り開き、さらにアーテルの拠点近くを開拓して村もどきを作り上げていたのである。
アーテルの本拠地である、彼女の洞窟近くには、リュフトヒェンの開拓村と似たように平地を切り開いて、簡単な家と、周囲は対魔物用に木々などを利用したバリケードなどで覆われている状況だ。
さらに、魔術によって何重もの防護結界やら魔物避けの結界やらも張られている。す
竜の庇護化に置かれている土地に襲いかかってくる怪物はいないとは思うが、念のための警戒は必要だろう。
基本的にこことリュフトヒェンの開拓村が開拓の最前線となり、近くの村が補給物資運搬の最前線基地となる予定である。
アーテルの作り出した村もどきを見ながら、リュフトヒェンはふと温泉以外にも何か面白い所がないか彼女に対して聞いてみる。
何せ、開拓というのは過酷な作業だ。人々を釣る大きな餌がないと人は集まってはくれないのである。
「ん?面白そうな所がないか?んー、そうじゃのう。まずはあそこなどはどうかな。」
そう呟くと、アーテルは竜形態に変身して、以前入った温泉の近くへと飛んでいき、リュフトヒェンとしがみついたセレスティーナもそれに付いていく。
温泉からさらに離れた、恐らくは火山活動の爆発によってクレーター上になったその地形は、緑色の池が無数に存在し、さらに黄色い硫黄の蓄積物と白い塩の蓄積物によって、緑と黄色と白の極彩色の光景に埋め尽くされていた。
そこを麓にして、聳え立つ火山の頂上である火口からは、硫黄の反応による青い光が噴出しているという、この世の物とも思えない光景だった。
『うわぁ……極彩色の光景だぁ……。』
緑と黄色と白の極彩色。それはアーテルが作り出した物ではなく、自然の環境によって作り出された光景らしい。
黄色の堆積物は恐らく硫黄。白は恐らく塩が固まった堆積物。
そして、緑色の水は気になるが、流石に指を突っ込んで調べてみる気はない。
その惑星上とも思えないおぞましくも美しい光景に、思わず見とれてしまう。
『なんじゃっけ?火山活動で強酸性?の池があちこちに出来ており、塩やら鉄やら硫黄やらが溶けたり結晶化したりしてこうなったらしいぞ。妾よー知らんけど。』
恐らくは、この火山によって暖められた地下水が温水となって、以前入ったアーテルの温泉地として形成されているのだろう。
さらに、見たところ、その緑色の液体、強酸性の液体の中には所々に砂金も
『後、本来は硫黄の関係で夜にしか見えない青い炎が火山口から噴出してるぞ。
精霊力の乱れとやらで日中でも平気で見られるが。』
竜形態のアーテルはそう言いながら、景色を指さしながらリュフトヒェンに対して答えを返していく。
つまり、あの緑色の水は強酸性の液体という事になる。言うなれば、天然の強酸性の湧き出る泉である。
その緑色の水を見ながら、セレスティーナは思わず驚いたように呟く。
天然でいくらでも強酸性の液体が採取できるとなれば、錬金術や魔術に対して極めて有用だからである。
「うわぁ……。流石の私もこんなの初めて見ました……。しかし、強酸性の池とか錬金術的にはめっちゃ便利なので調べてみましょう。」
緑色の水を採取してみて、そこにとある液体を垂らしてみると、本来緑色の液体はみるみるうちに赤へと染まっていく。
これは、pHによって色の変わる薬品を入れて、どれだけの酸性の強さか確かめているのである。
「ふむふむ。調べた感じ胃酸か硫酸程度の強さの強酸性ですね…。十分錬金術の役に立つと思います。」
つまり、これを加工することによってさらに強酸性の液体、つまり硫酸などが容易く作成できるという事だ。
硫酸は錬金術の基本であり、わざわざこれを作り出さずに無限に天然で採取できる場所など、錬金術にとっては喉から手が出るほどほしい場所だ。
さらに、硝酸と硫酸をセルロースで加工する事によって、黒色火薬より煙が出るのが少ない優れた火薬である無煙火薬を作り上げる事もできる。
そういう視点からすれば、ここはまさしく絶好の土地だった。
「他には、アーテル様のおっしゃるように酸化鉄に硫黄、塩などの塊みたいですね……。というものの、硫黄はアーテル様の温泉でも取れるので、無理して荒らさずに観光資源とした方がいいでしょう。」
下手に色々な物を採取してこの光景を崩すのは惜しい。
酸性の水だけ採取して、他には手を付けずにここは観光資源として活用すべきというのは、セレスティーナの考えだった。
『まあ、確かにこれだけで人が呼べそうだもんなぁ……。
ちなみに、火山に何か鉱脈とかあるのかな?』
「さすがにそこまでは……。ドワーフを呼んで調べてみないと……。
ですが、あの強酸性の池の中に僅かながら砂金がありました。
金鉱脈がありそうな気はしますが……何とも。」
金か、金が出ると知ればゴールドラッシュが起きて、皆この領地へと群がってくる。
そうすればみんながどんどん金を落としてくれて、開拓村も発展していくだろうから、あったらいいなぁ、とリュフトヒェンは漠然と思った。
・イメージ的には、ダロル火山、ダナギル砂漠のイメージです。
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