第107話 妖精騎士領主、着任。

 領主がエインセルの手によって倒された事により、この領地の兵士たちは一斉に降伏してリュフトヒェンに従う形になった。

 元々やる気がなく、士気も高くない、自分たちが何をしているのかも分からずただ領地に言われるまま行動した兵士たちだ。

 彼らを根こそぎ処分すれば恐怖政治と取られ、さらに根に持つ人間たちが増えかねない。

 セレスティーナも、それには大まかな部分で賛同したが、一部だけ彼女の逆鱗に触れてしまった存在がいる。

 それは、リュフトヒェンに毒を盛ろうと企んだこの領地の首脳陣である。


「まあ、一般兵士たちや大半の人たちは元領主に操られたという事で無罪放免という事でいいでしょう。

 問題は……ご主人様に毒を盛ろうなどと企んだクズどもですね。

 私のご主人様に危害を与える真似をして、大人しく死ねると思うなよクズどもが。

 私が考案した特別魔術、不死刑の実験台にしてやろう。」


 不死刑。それは、セレスティーナの魔術により肉体の再生機能を暴走させ、醜い肉塊になったまま苦痛と苦しみを背負ったまま生き続ける魔術である。

 しかも魔力によって再生能力が暴走されているため、死のうとしても死ねず、セレスティーナの試算によれば、現状でもおよそ50年は肉塊のまま苦しみ続ける計算になる。

 死すら与えず、長い年月醜い肉塊になって苦しまなくてはならない苦痛を与える事

 に特化した魔術である。

 ご主人様であるリュフトヒェンに危害を与えた者に対して、容赦する気など彼女にとっては全くないのだ。それが人道に外れた行為であろうともである。


『あ、あの……。あんまりやりすぎると我の人望とか下がるから、ね?

 ここは(比較的)穏便に……。』


「……。仕方ありませんね。ご主人様がそうおっしゃるなら……。

 ここは人道的にギロチンと晒し首で勘弁しましょう。敵を増やすのも本意ではありませんし。」


 人道的にギロチンと晒し首とは一体?と思わずリュフトヒェンは思うが、まあ、こちらに逆らった者たちが全て無罪放免では面子が立たないので、これから先の反乱分子たちが流す血を少なくするための犠牲だと割り切る事にする。


 そして、問題は彼らを排除した後の後釜だったが、これは領主の首を取って無駄な戦いを収めたエインセルがこの地の領主になることが決定された。


 簡易的な儀式の場として設けられた領主の屋敷の前の広場で、エインセルは堂々と皆の視線を受けながら中心部へと歩み寄る。


 思えば長かった。貴族の三男、しかも妖精、亜族の力を秘めている人間がまともな騎士に仕官できるはずもない。全てからつま弾きにされて、傭兵稼業として汚れた青い血として生きるのがやっとの生活。真面目に生きようにも、こんな亜族もどきの力をもっていては、誰もまともに働かせてくれるところはない。

 騎士になりたいとも、なれるとも思ってみたことなどなく、ただひたすらこの祖先返りの忌むべき力を呪っているだけだった。

 だが、そんな中権力を握ったとされる竜ならば、自分の力を受け入れてくれるかもしれないと思ったのだ。

 そして、その思惑は当たり、彼は瞬時に立派な騎士へと任命された。

 忌まわしい力を持っているこの自分がだ!!

 さらに今やそのさらに上、きちんとした領主としてすら任命させようとしているのだ!!

 ざまあみろ!俺を蔑んだ奴らざまあみろ! 俺は騎士になっただけじゃない!

 もはやきちんとした領主として存在するのだ!これこそこの世界でも滅多にあり得ない成り上がり物語という奴だ!!


 爆発しそうな歓喜を抑えながら、リュフトヒェンの代理としてセレスティーナが膝をついているエインセルの肩に剣を置いて、簡易的な儀式ではあるが領主任命の儀式を行う。

 だが、それでも立派な領主であることは間違いないのだ。


『竜皇の名において、汝をこの地の領主へと任命する。異議はあるか?』


「ありません。我が君主。その光栄、喜んでお引き受けいたします。」


こうして、妖精の力を持った祖先返りの騎士、妖精騎士領主エインセルがこの地に着任する事になった。

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