第101話 強襲!オドントティラヌス&マンティコア

『うむうむ♪地方回りも順調順調♪良きかな。』


 偶像三人による地方巡業……つまりドサ回りは各地の村々や小都市でも好評であった。何せ娯楽の全くない田舎に歌姫が来たとあっては殺到するのも当然である。

 未だ、彼女たちもリュフトヒェン自身も竜都でしか名前は知られていない。

 知名度を高め、忠誠心を得るためにはこうした地方巡業も必要なのだ。

 山賊を倒し、地方領主から金を巻き上げる自力救済とは逆に、都市や村に泊まる事によって金をばら撒くことが目的だといえる。


 普通の領主たちは、それを素直に受け入れ、リュフトヒェンを主として従う事にも異を唱えなかったが、一部の元帝国穏健派たちはそれを腹にすねかえていた。

 そこでちょうどよく入ってきたのが神聖帝国からの女性の使い――人間が下級悪魔へと変貌した存在――である。

 妖艶にほほ笑む女性の使いたちにセクハラや交じり合いながら(なおほとんどが元男性)穏健派の一部たちは、言われるままにリュフトヒェンたちに対するクーデター計画を行う事を決定した。


 とは言っても、彼らはリュフトヒェンが渡る予定の橋を落として足止めするだけ。

 後は、悪魔が作り出した怪物たちが襲い掛かるので、知らないふりをしておいてもらいたいという事である。

 例え失敗しても我々には何も関係ない、何も知らない、という事を条件に、その作戦は結構させる事になった。


『……橋が落ちているとは。全く陸路は本当に不便だなぁ。』


 落ちている吊り橋を覗き見しながら、リュフトヒェンは思わずぼやく。

 空を飛ぶ事ができればこんなものひとっ飛びで越せるから問題ないが、他の旅団の皆は飛ぶ事ができないので事実上足止めを食らっているのに等しい。

 通常の橋ではなく、吊り橋であるため落ちていても不思議ではないのだが、セレスティーナは切れた綱をしげしげと眺めながら不審げな顔をする。


「この縄は……自然に千切れたものではなく、誰かに刃物に切られた物ですね。

 自然に切れたのなら、もっとバラバラに解れた感じがあるのに、これは切断面が比較的綺麗です。となれば……何者かによって「落とされた」可能性が高いですね。」


『……それってヤバくない?つまり、それって誰かが橋を落として、こちらを足止めしてるって事だよね。そのあとで来ることと言えば……。総員警戒態勢!!

 周囲に人員を放って周囲を警戒!!敵襲が来る可能性が高いぞ!!』


 そのリュフトヒェンの言葉と共に、警備の兵士たちが散らばって周囲の地形を把握や警戒態勢に入る。現在両側は森で覆われているため、そこから潜んでいた敵兵士が足止めされているこの状況で襲い掛かってくる可能性があるのが高いからだ。

リュフトヒェンが飛行しての監視でも、木々に覆われている以上上空からの目視では見逃してしまう可能性が大きいし、それに何より、最大戦力である彼を今ここから動かすのは得策ではない、という判断である。


 と、警戒態勢に入った瞬間、左右の森から魔法陣が浮かび、「何か」がこの地へと転送されてくる。

 右側は大きさおよそ15mほどの巨大な怪物、一見竜にも似ているが、黒色の馬面に三本の巨大な角を生やして爪を振りかざしてくるゾウを超えた巨大さの化け物。

 ―――オドントティラヌス。

 オドントティラヌスは「歯の僭主」という意味であり、アレクサンドロス記で火で脅しても怖じず、マケドニア軍の26人を殺し、52人を戦闘不能にしたが、ついには狩猟用の槍で刺して仕留められたとされる存在が魔法陣によって出現したのだ。


そして、左側に転移してきた怪物は、マンティコア。

老人の顔にライオンの胴体、そして鋭い鍵爪にサソリのような尾と24本もの鋭い毒針を所有している怪物である。

そして、その老人の顔は自在に魔術を使用できる恐るべき強敵である。


『オドントティラヌスは我が引き受ける!マンティコアはセレスティーナが撃退してくれ!!他の兵士は旅団の周辺警戒!弱者たちを守護せよ!』

 

「「「了解ッ!!」」」


そのリュフトヒェンの叫びに、兵士たちは一斉に了解の返事を出して活動を開始した。


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